徳川家康は、折に触れて源頼朝の事跡を評論することが多かった。
「頼朝が蛭ヶ小島に潜居していた時、
『もし私が本意を遂げて天下の兵権を握ったとしたら、
かならずお前に恩禄をとらせるぞ。』
と家僕に語られたところ、
その家僕は嘲笑ったという。
後に頼朝が将軍職になられて、あまねく恩賞が施された。
しかし、その者は恩賞にあずかることができなかった。
そこでその者は頼朝に昔のことを言い出した。
頼朝は、
『お前は昔、私の言葉を笑ったことを忘れたのか。』
と言った。
するとその者は、
『いや忘れてはおりません。しかしながら、よく考えて下さいませ。
昔より、あんなにも頼りに思えない主君に、
今まで付き添って参ったそれがしのことを。
最初からあなた様に仕えて功名を立てようと思っていた連中に比べれば、
それがしは忠義者ではありませんか。』と申した。
これには頼朝も理に屈して厚恩を施したという話だ。
これは、その者の言葉が実にもっともなことであったな。」
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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