紀州徳川頼宣が、晩年に語ったことである。
頼宣四歳の頃、父・家康に従って、
漁り(すなどり)をしたことがあった。
その道すがらに、谷川があったのだが、
この時、家康は頼宣に向かって、
「ここを馬に乗って渡れ。」
と言ったが、頼宣はためらい、
頼宣の左右の者たちは、これを察して手助けしようとしたので、
家康は、
「臆病な事である。」
と言って、
頼宣の従者達を叱り、結局、谷川を渡る事はなかった。
頼宣七歳の時にも、家康が漁りに連れて行った。
この時にも、途中、谷川があり、
家康はまた、
「ここを馬に乗って渡れ。」
と言う。
頼宣は、四歳の時、渡らず臆病と言われた事を思い出し、
一人で憤然と谷川に乗り入れた。
しかし過って水に落ち、流された。
ところが、である。
水の途中には、網が張ってあり、
そこに引っかかった頼宣を、従者達が引っ張って助けた。
川にはあらかじめ、家康の命により網が取り付けられていたのだ。
このようにして家康は、
頼宣に剛毅の心を育てようとしたのであろう。
これを語ると頼宣は、
「今にして思えば、父上が私のことを思い訓育してくれたこと、
涙の出る思いである。」
と、振り返ったそうだ。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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