徳川家康が、駿府にいた頃のお話。
家康は、大奥の女中たちが、浄慶の悪口を言っているのを聞いた。
浄慶とは、台所頭のようなことをしていた坊主である。
家康は、年寄の女中に、どうして浄慶を嫌うのかと問いただした。
「それが浄慶のつくるおしんこが塩辛いのなんのって、
それはもう酷いのでございます。
いつも何とかしろと言っているのですが、
いまだに塩辛くて、食べられたものじゃございません。」
「成る程。では、わしからよく言い聞かせておこう。」
約束通り家康は、浄慶に、おしんこの塩を減らすように言った。
すると・・・。
「そのことですが大御所様、実は・・・。」
「ふむふむ。フフフ、成る程。」
浄慶は、家康に何か囁いたのだった。
それからしばらく経っても、おしんこの塩辛さに変化はなかった。
疑問に思った家康の近習は、
「いったい大御所様になんと言ったのだ。」
と質問すると、
浄慶は、
「女中たちは、いくら塩辛くても、おしんこをたくさん平らげます。
まして女中たち好みの味にしたら、
いくらつくっても、追い付かないことでしょう。
ですから、女中たちの話は、聞かなかったことになさるとよろしいでしょう、
と申し上げたのだ。」
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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