三河一向一揆の大将格の一人・浪切孫七郎は戦闘中に、
小豆坂で徳川家康に会ってしまった。
するとどうしたことか、孫七郎は敵の大将に背を向けて逃げ出したのである。
彼は家康と敵対してこそいたが、家康を殺したいわけではなかったのだ。
ただし、慌てて逃げるとみっともないので、そろ~りと馬を進めた。
「待たんか貴様!孫七郎だろう!」
(やべ、バレた!)
焦った孫七郎、やっと本気になって馬を走らせるが、
家康に背中を二度突かれてしまう。
しかし、致命傷ではなく、孫七郎はなんとか逃げおおせた。
そして一揆鎮圧後のある日、家康は帰参した孫七郎を呼び出した。
「小豆坂で負った後ろ傷はその後どうだ?」
「某は後ろ傷を負ったことなどありませぬ!人違いでありましょう!」
「ほう、白を切るつもりか。わしは確かに二度お前を突いたぞ。
そこまで違うと言うのなら、裸になれ!」
孫七郎は追いつめられて顔を真赤にするが、まだ認めない。
「確かに二ヶ所槍傷がありますが、断じて殿に突かれたものではありませぬ!
他の者に突かれたのです!」
「それ見ろ。それは間違いなくわしのつけた傷だ!
その傷があるかぎり、お前は一生わしに頭が上がらんな?」
いよいよ言い訳できなくなった孫七郎は、ついに降参した。
それからの孫七郎は熱心に奉公したという。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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