ある日のこと、家中一統の馬揃えがあり、いずれも美しく着飾り、
日頃愛用の馬にも立派な装具を付け、どの者もこれ見よがしと競って参加した。
慶次はこの時、黒の粗服をまとい、一頭の牛に跨って悠々と出場。
これを見た人々は呆れ返って、
「馬揃えに牛に乗ってやって来るとは! 人を馬鹿にするにも程がある!」
と口々に罵った。
すると慶次は口を開き、
「我は小禄の分際であり、馬を飼う余裕がない。
よって牛を飼育しているのであるが、
物の用にさえ立てば、馬でも牛でも同じであろう。
それを今お見せしよう。」
牛に一鞭を加えると、場内を縦横無尽に疾駆して、その速いこと馬に劣らず、
人々は、
「さすが前田慶次である。」
と舌を捲いて驚いたという。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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