天下を決する大坂の陣。
大坂城を囲む佐竹義宣軍中に、大塚九郎兵衛と郷田七右衛門という二人の武士がいた。
郷田七右衛門は常日頃、「鬼七右衛門」と呼ばれていた男だった。
気の荒さで知られ、往来で人を斬り、相手を己より弱しと見ればおおいにいたぶった。
この戦の前にも、一つ事件を起こしている。
大塚九郎兵衛にからんだ郷田七右衛門、あろうことか彼の頭を殴りつけたのだ。
武士として、果し合いになっておかしくない暴挙。
しかし、大塚九郎兵衛はじっと耐え、臆病者呼ばわりされても沈黙した。
やがて、合戦が始まると、大塚九郎兵衛はおおいに奮戦し、武功を上げた。
義宣より感状を賜った九郎兵衛、その足で郷田七右衛門のもとへ赴いた。
大坂で郷田七右衛門の功は皆無だった。
どころか、いつもの粗暴ぶりはどこへやら、まったくものの役に立たなかったのだ。
大塚九郎兵衛は言った。
「かつてわしが恥を忍んだのは、こういう時にお上に命を捧げるためであったのだ。
そして今、こうして功を立て、感状を拝領することができた。
この感状にあやかるがいい。」
九郎兵衛は感状をもって、七右衛門の頭をびしりとはたいた。
鬼と呼ばれた郷田七右衛門はうなだれ、頭を垂れて謝罪したという。
家中の人々は日頃より、
戦があれば郷田七右衛門がまず功を立てるだろうと噂していた。
この顛末を聞き、実に意外なことだと話し合ったという。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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