鍋島直茂の家老・鍋島安芸守茂賢は、
主君に用があって御座所へ向かったが、直茂はあいにく不在だった。
誰に聞いても行方を知らないというので城中くまなく探した所、
外堀に面した隅櫓に登っているのを見つけた。
「殿、こちらでしたか。なぜ、このような所に来られたのです?」
「ここは、佐賀の街が良く見える。
ここ二、三日、わが国の風俗を眺めておったのじゃ。
人通りを見ていて、感じた事があったのでな。
・・・嘆かわしい事に、この肥前国の侍どもは、弱くなり始めておる。」
「ほほぅ!それはまた、どういう訳でございましょう?」
「家老たるその方も、良く心得ておけ。
ここで街を往来する者を見ると、
大抵が伏し目がちに地を見ながら通る者ばかりよ。
これは、佐賀者の気質がおとなしくなったからじゃ。
勇み足を踏む位の気持ちでなければ、
槍も突けぬものだがな。
忠義も良いが、律儀に正直に、などと考えてばかりで、
心が固まっていては、功も立てられん。
時にはハッタリの一つもかまし、
胸を張り背を反らす気構えこそ、武士に必要な事よ。」
これを聞いた茂賢はホラ吹きとして知られるようになったが、
名家老としても名を残した。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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