家康公の命による、立花攻めの前日。
立花方に申し入れることがあり、
大家太郎左衛門を使者とするように直茂公が命じた。
鍋島の者はみな、
「太郎左衛門はブサイク(醜男)の上、
言葉に詰まる者ですから使者にはどうかと・・・。」
と申し上げたが、直茂公は、
「今回、立花への使いは男ぶりや弁舌はいらない。
気骨ひとつですむ案件なのだ。
太郎左衛門の気骨の逞しさは、日頃から見抜いている。」
と仰せになって、立花方へと遣わされた。
さて太郎左衛門は立花家へおもむいて、
「このたび、家康公の御命令により、
明日、当地へと攻めよせます。
もし、釈明なさるのなら、
早々に黒田、加藤両検使までお申し出になるとよろしかろう。」
と、つかえながらもなんとか口上を申し述べた。
返事を待っていると、襖一つへだてた隣の部屋で、
立花の侍たちが、
「なんという生ぬるい口上か。
西国無双の立花とまで言われる当家が、
この期におよんで釈明をするなどと思っているのだろうか。
それにつけても、あの使いの男の見苦しさはなんなのか。
口上もろくに喋れず、鍋島にはよほど人がいないらしい。」
など、さまざまに悪口を言った。
さて返事を聞いて、立ち帰るときとなり、太郎左衛門は大声をはりあげ、
「ただいまそちらでの御評判の内容、
こちらへもはっきりと耳に聞こえました。
鍋島の槍が手ぬるいかどうか、明日皆様方へお見せしよう。
畳の上での御批判とは、ちと違うことがおわかりになると思います。
さてまた、拙者が醜男で口上が下手だとの批判はもっともと思います。
しかしながら、武士にとって男ぶりや弁舌が役に立つとお思いですか。
私の戦場での働きもあわせてお目にかけましょう。
見事この醜男と立ち合ってみてください。
もし、今すぐにでも私が本物か確かめたいのであれば、参られよ。
ひと働きいたしてお目にかける。」
と断言し、しばらく待ったうえで、立ち帰ったとのことである。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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