ある時、鍋島直茂が領内の下村という地で鷹狩りを行った。
早朝から夢中で山野を駆け回った為、すっかり喉がカラカラになってしまった直茂。
一軒の寺を見つけたので、喜んでそこに駆け込んだ。
「突然のコトで申し訳ないのだが、喉が渇いてしまって難儀している。
水を頂いても良いだろうか?」
囲炉裏で火を炊いていた住職は快くそれに応じ、お湯を少量碗に掬い、
水を注して直茂に差し出した。
直茂はそれを一気に飲み干し、「もう一杯!」とお替りを要求。
住職も笑いながら、再び椀を差し出す。
一杯目で人心地ついた直茂は、ゆっくりとお湯を飲み干す。
「……住職」
「はい、何でしょう?」
「今し方頂いたお湯のコトだが、一杯目と二杯目とでお湯の温度を変えたのは、
ワザとなのだろうか?」
「ええ、勿論。水を求めて駆け込んできた方に、
熱いお湯など差し出しては口を火傷してしまいますからな。」
そう、住職はお湯に注す水の量を変え、
一杯目は一気に飲み干せる程度のぬるま湯を、
二杯目は身体を温めるように熱い湯を差し出したのである。
「ふむ……住職、勝手なコトを言うようだが、還俗せんか?」
「は!? 一体何を……?」
「還俗して、家臣として私に力を貸して欲しい。頼む!」
直茂はこの住職の気遣いに感じ入り、自らの家臣として出仕するコトを望んだ。
芳叔と号したこの僧侶、やがて還俗して下村生運を名乗り、
直茂の望み通り、彼に仕えるコトとなる。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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