北条と佐竹が、下野において争った折の事。
北条方の武士、岡部権太夫は首を一つとって陣へと帰ってきたが、
何かおかしい。
よくよく身の回りを見ると、
なんと自分の指物がなくなっている。
「しまった!落としてきたか!」
そう悟ると、「ゴメン、ちょっと行って来る。」
北条家の者達が唖然とするなか、
彼は首を引っさげたまま、再び佐竹の陣へ向かって馬を駆けた。
敵陣近くまで来ると、岡部は大音声を上げた。
「わしは下総の住人、岡部権太夫と申す!
今日の戦において敵と組討し、首を一つ取ったが、
そのおり我が指物を落としてしまった。
この首はまだ、実験に入れてはおらぬ。
出来ることならこの首と我が指物を、
取り替えていただきたい!
我が指物は猪の紋である!」
すると佐竹側から一騎が進み出てきた。
手に、指物を持っている。
「戦場で拾い申した!これの事でござるか!?」
「おお!いかにも!」
そこで、指物と首を交換し、互いに分かれて自陣へと帰っていった。
このことは両陣において、ゆかしき振る舞いであると、評判になった。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
こちらもよろしく

ごきげんよう!