黒田長政が小早川隆景と語った時の事。
長政が訊ねるに、
「人はあなたを天下の分別者だと言います。
分別とはどのようなものでしょうか。」
それに対する隆景の答えは、
「分別というのは知恵のことで、
知恵をもって色々なことに個別に対処することを言います。
そして世の中広しと言えども、
あなたの父・如水殿ほどの知恵を持った人はいません。
私も知恵では如水殿には到底及びません。
父上の言行を学ばれたら、あなたは天下の分別者になれるでしょう。
しかし、世上が私を分別者と言い、如水殿の事を言わないのはなぜかと言えば、
それもまた如水殿が無二の知恵を持つからです。
如水殿に何か相談すれば、速やかに事の善悪を分別し、
これはこれと最も良い配慮、判断を下してくれるでしょう。
その判断に聞いた時、例えば秀吉公のように聡明な人には、
その分別の正しさを汲みとる事ができるでしょうが、
大抵の者はその分別の速さ深さについて行けず、
大丈夫だろうかと無用の不安や不信に駆られてしまうのです。
私などは愚鈍なため、当座に決めたことについても、
今一度思案してから相談するという具合なので、
却って分別者のように思われているだけで、
如水殿の速やかな決断と比べたら劣ることばかりなのです。
分別者になりたければ、如水殿の知恵を学び、分別者と呼ばれたければ、
即断する前にひと思案されると良いでしょう。」
長政はさらに訊ねた、
「では分別に肝要の事というのはありますか。」
隆景は答えて、
「分別の肝要は仁愛です。
万事を決断するのに、仁愛を持って分別すれば、
思慮が外れてもそう大きくは間違いません。
仁愛なき分別はいかに才知が巧みであってもみな誤りです。」
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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