さてさて大坂冬の陣。
伊達政宗は、大坂城の外格を打ち破ろうと思い、物に慣れた侍六・七騎を率いて、
攻め口を探しているうち、城の直ぐ近くにまで出てしまった。
しかし、その付近の大坂方は、どうも政宗なんかに関わりたくないと思っていたのか、
伊達一行を見ても、見て見ぬふりをしていた。
と、ここで政宗、馬の鞍の上に立ち上がって、
大声で城方に叫んだことには、
「どうして城内の奴らは鉄砲を撃ってこないんだ!
玉薬が尽きたのか?
それならわしが、
(そこに弾丸を打ち込むという意味で)取らしてやろうぞ!」
この露骨極まる挑発に、城内から鉄砲が二発撃たれた。
が、その弾は政宗の頭上遥かを飛んでいく。
これに政宗カラカラと笑い、
「飛んでいる鳥などには、ああやって空に向かって討つものだ!
よいか?目の下にいる敵には手股を上げ、筒先を下げて撃つのだ。」
この言葉が終わる前に、今度は城方より鉄砲十挺程がつるべ撃ちをした!
しかしこれも政宗には当たらない。
だが、後陣に控えていた伊達家の老武者の、右頬から左の耳の付け根に、
弾丸が貫いた!
彼は馬からどうと倒れ落ちる。
これに政宗、
「…!
はっはっは、お前たちは器用だな。
今教えたら直ぐに腕が上達しおった!
稽古に神変ありとはこの事だな!」
と威勢のいいことを言い、
その場に留まるようなふりをしながら(たぶん馬の鞍に立ったまま)ズリズリと下がり、
ついにそこから退いたと言う。
これを見た人々、
「あら不思議の政宗や、只今の鉄砲が一つだけの目に当たったならば、
この重要な戦の前に、もうお目にかかることはなくなったのに。」
と、笑ったそうである。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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