伊達政宗は一時期、島津忠恒の屋敷に入り浸っていた。
政宗は宴会が好きである。
忠恒は酒が大好きである。
この二人が揃えば、
「どうして、いや当然こうなった・・・。」
明け方になっても、呑んだくれ騒ぎまくっていた。
迎えに来た政宗の重臣・茂庭周防良元は、この有り様に頭を抱え、
忠恒の家老・伊勢貞昌に相談した。
「あの状態で口出ししても、かえってゴネて居座りかねません。どうしたものか。」
「うーん、ならば政宗公に大盃を差し上げては?
あの方は、大盃は『酒が進み過ぎて宴が早く果てる』とお嫌いのはず。
よって大盃を差し上げれば、それと察してお帰りになるでしょう。」
「うむ。その様にお願いいたす。」
「では、早速に。」
夜からぶっ通しで遊び騒ぐ政宗の前に、貞昌が進み出た。
「その盃では、お酒が進みますまい。これをどうぞ。」
「・・・・・! 長居しすぎたようだな。」
顔色を変えて席を立ち、宴の間を出た政宗は、廊下に平伏する良元を見て、爆発した。
「お前の差し金か!」
政宗は良元をさんざんブン殴った上、髷を掴んで投げ捨てた。
「フン、興が削がれたわ。帰るぞ!」
起き上がった良元は、落ち武者のように乱れた衣服や髪もそのままに、
「いやぁ、拙者などは若い頃から小姓として政宗様に仕えておりますが、
政宗様のお心に背いた時は、こうして殴られたものです。
まぁ今もって変わらず、今日もご覧の通り。」
そう言って笑い、島津家を後にした。
「う~む、他人の前で重臣を折檻するとは・・・奥州の名門も何だか危ういのぅ。」
島津家の面々は伊達家の者をそう批評したが、
ひとり伊勢貞昌は、これに異を唱えた。
「いや・・・周防め、侍たる者が他家の者の前で辱しめられながら、
表立って主君のグチを言わず、かと言って格別自分が卑屈になった訳でもなく、
涼しい顔で帰りおった。
ああいう男がいる限り、伊達家は次代も安泰だろう。」
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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