伊達政宗公が、或る時お話されたことに。
「あれは家康公の天下の時のことだ。
私は鷹狩に出たのだが、私の鷹場と公儀の鷹場の境まで進んでも、
獲物が思いのほか少なかったので、
公儀の鷹場にこっそり忍び入ってな、そこで鳥を3つか4つ獲り、
その上鶴まで合わせて獲った。
が、その時だ。
私の鷹場の方から、大勢が鷹を使っている様子が見えた。
不審に思っていると、それはなんと家康公の鷹狩の一団ではないか!
これはいかん、見つかったら怒られる!
我々は慌てて大騒ぎし、鷹と鳥を隠して逃げ出した。
ところが家康公は御馬を早め、空堀の中に入られ、
人馬を下知して皆堀の中に呼び込み、
堀に紛れて急ぎ御退きになられた。
私はその時、御退きになった先に鳥があってお急ぎになったのだと思ったが、
とにかく我々はこのラッキーに竹林に紛れて隠れ逃げた。
その後、家康公が江戸にお帰りになったので出仕すると、
私に仰ったのは、
『伊達殿、あの時私は其方の鷹場に盗み入ったのだ!
しかしそこで其方の居るのを見つけ、
これはまずいと、つい堀に紛れて逃げてしまった。
こんな事は私の一代にないことだ!
しかしこの様に降参した上は、どうか許してほしい。』
なんと謝罪されたのだ。
私はこれを聞いて、
『さては、そういうことでござったか!
早く見つければ是非捕らえて曲事に出来たのに!
…ではありますが、実は私も、その日は公儀の御鷹場に盗み入って、
家康公の御成を見つけ、慌てて逃げ退いたのです。』
と正直に申し上げた。
すると家康公は、
『さては、そう言う事だったのか!
そういえば今考えれば、其方も竹林の影に隠れていたなあ。
私に気を使って隠れたのかと思い、猶急いで息を切って逃げてしまったよ。
あの時、互いにこの事を知っていたなら、逃げながらも息を休めて、
ゆったりと退けたのに。
とにかくこの事は、双方に咎ありだな!』
そう、どっとお笑いなされた。
御前に伺候の衆も、腹を抱えて爆笑していたよ。」
と物語されたのである。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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