伊達政宗は小田原の陣の時、豊臣秀吉公にまみえんために、
奥州の会津より越後、信濃を廻って、小田原の秀吉公の後陣に来た。
秀吉公はこれに御満足され、対面を許した。
その日の秀吉公のご装束は、作りヒゲに3尺ばかりの朱鞘の太刀を履かれ、
床几に腰を掛け、細い杖を突いておられた。
政宗はこの時、状況によっては秀吉公を突き殺してやろうと、
懐に小脇差を入れて座っていた。
そこに秀吉公は、床几に腰を掛けながら、
「こなたへ!こなたへ!近くに寄れ!近くに寄れ!」
と言われた。
政宗は「あっ」と言い、刀、脇差を抜いて4,5間投げ捨て、
秀吉公のお近くに寄った。
しかし、秀吉公は杖で地面を突いて、
「ここへ、ここへ。」
と更に言われた。
政宗は畏まって、その場所まで行った。
その時、秀吉公は杖で、政宗の首を突いた。
「さてもさても、其方はうい奴である。若き者ではあるが、良き時分に来たぞ?
今少し遅く来ていれば、ここが危なかった。」
そう、政宗に言われた。
政宗はそれまで、いざとなれば突き殺してやろうと思っていたのに、
この時はそんなことも考えられず、
首に熱湯をかけられたような気持ちであったという。
その時、秀吉公は、
「これから鷹野に行こうと思っているが、お主も行くか?」
と仰せになった。
政宗は、「参りたく思います。」と答えた。
すると秀吉公は、
「されば、この刀を持て。」
と、自分の太刀を政宗に持たせた。
この時には政宗に何の邪心もなく、
『これは秀吉公に気に入られたようだ。』
と嬉しく思い、御太刀を持って鷹野に供をして帰った。
これは政宗が、中納言様(前田利家)に物語されたのを、
お次の間で聞いたのだと、前田七郎兵衛が語ったものである。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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