蒲生忠郷は、ある不快な問題に頭を悩ませていた。
それは、伊達政宗が江戸参勤のとき、いつも忠郷の城下に本陣を置くことであった。
時に、その忠郷には蒲生源左衛門という家来がいた。
源左衛門、その主君の不平を聞いて、
「次に来たら私にお任せください。二度とそういうマネはさせんようにします。」
と政宗を待ち構える。
はたして政宗はやってきて、またしても忠郷の城下にて本陣を置いた。
源左衛門、それを聞くやすかさず本陣宿屋に直行、
宿屋の主人が制止も、
「本人が来たら退くから心配するな。」と一蹴し、
ズカズカと着座の間まで突入した。
やがて到着した政宗が部屋に入ってみたものは、
床を枕にして堂々と空鼾をかいて寝そべる大男の姿。
思わず「お前誰だ!」と聞いた政宗の前に、悠々と起き上がるや、
「蒲生源左衛門と申します。鷹野の帰りで疲れたもんでここで休んでいました。
いやぁここが御本陣とも知らずに無礼仕りました。」
と畏まって見せる源左衛門。
政宗、「かねてから源左衛門の名はよく聞いてたぞ。これもまた縁というもの、
今後の知人となるうえで、ここに一つ面会の祝儀をやろう。」
と腰の脇差を手に取り、
「これは名物というものでもないが、
かつてはその方のような大男を袈裟に切ったら股まで切り裂いた代物だ。」
と源左衛門に賜った。
源左衛門、それを恭しく受け取ると、
「お腰を空にさせるわけには。畏れながら私の脇差をお受け取りください。」
と今度は自分の脇差を差し上げると、
「この脇差は私の領内の片目の大男を頭より尻まで真っ二つにしてみせた業物です。」
と、言い残してそのまま退出した。
後にのこった政宗、
「蒲生には氏郷以来の良い家来がいると聞いたが、
なるほど源左衛門とは大したものだ。」
と一人感服。
以後、政宗は城下に宿泊することはなかったとのことだ。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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