再生工場長、リストラする(一)
蒲生氏郷は、橋本惣兵衛という侍を1万石の約束で迎え入れた。
この橋本が歓迎の宴席で、
「それがし、子が多いゆえ、
10万石も賜れば一人ぐらい川に放り込んでみせまする!」
と豪語した。
翌日、橋本は氏郷の書斎に呼ばれた。
待っていたのは、厳しい顔をした主君だった。
「おまえは昨夜、『高禄とわが子を引き代えても良い』と言ったそうだな。」
「はい、確かに憶えはありますが・・・。」
「つまり、高禄さえもらえれば、
人質を取っても犠牲にして簡単に裏切る、という事だな。
当家では、そんな義理の薄い者に、1万石も与えるわけには行かぬ。
千石なら出してやろう。」
当初の1割で雇われた橋本だが、面目を失い、やがて退転したという。
再生工場長、リストラする(二)
玉川左右馬は弁舌さわやかで、才覚ある者として世に評判が高かった。
氏郷の家臣が彼と会い、その学識に驚き、主君に彼を推薦した。
喜んだ氏郷は礼を厚くして玉川を迎え、
10日間に及んで彼の話を熱心に聞いた。
ところが、礼金をはずんだものの、
氏郷は玉川を正式採用することなく帰してしまった。
玉川を推薦した家臣は、氏郷に聞いた。
「玉川ほどの才知ある者、登用の上、ゆくゆくは謀臣にもなる器と見ましたが、
殿は10日分の禄を与えただけで帰してしまいました。
どんなお考えがあっての事でしょう?」
氏郷は答えた。
「世に知恵者と呼ばれる者は、見かけは立派だが口先だけの者が多い。ヤツもそうだった。
今の乱世ではみな文字に暗いゆえ、あんなヤツを知恵者と言ってしまうのだ。
アレの話は、まず始めにペラペラとオレにお世辞を言い、次にクドクドと諸大名を批判した。
さらに自分の交友関係の広さを自慢して、自分を大きく見せようとした。
こういう男は人の和を乱すので、どんなに才能があっても遠ざけるべきものだ。
だから、暇を取らせたのさ。」
のちに玉川が某家に仕え、主君に取り入り忠臣を退け、
己の意のままにふるまったので、
その家中が荒れ、結局追い出されたという話が伝わってきた。
蒲生氏郷が家臣に求めるもの、それはただ一つ “信頼” である。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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