関が原の戦いの後、
佐竹家は転封を命じられ、佐竹義重も奥州路を通り一路、新天地・秋田へ向かった。
途中、白河は滑津まで来たところで、武装した集団に出会った。
伊達政宗が、陣を構えていた。
「さては旧怨を報いんとてか、それとも別の魂胆あっての事か?
誰ぞ政宗に談判して参れ!」
義重は家臣に伊達軍との交渉を命じたが、苛烈をもって知られる政宗と、
背後に控える軍容を恐れて、誰も名乗り出ようとしない。
ついに、末席に控えた小姓の和田十二郎が、
しばしためらった後に使者の役を買って出た。
ただ一騎、十二郎は思い切って伊達軍の中を駆け抜け、
中央に位置する陣幕の中へ乗り入れた。
「狼藉者め、何奴じゃ!」
床机に腰掛け、眼光鋭く睨みつける政宗を前に、
十二郎は馬を飛び降り、平伏した。
「突然の無礼、失礼致しました。
拙者、佐竹義重配下の者。
ただ今、義重が秋田へ向かうに及び、
大勢で待ち受けるは、野伏り等が追剥ぎせんとの企みなり。
追い散らせとの主命により、参った次第。
あに図らんや、伊達殿のかかる振舞いは、義重を妨げ、
通さずとの心にございますか?」
「いや、これは義重殿が途中にて不慮の事あれば、政宗これを保護せんとの心。
いざ心安く通られよ。」
「武門たる家が、他家の保護を受けて秋田へ赴いたと言われては、
末世までの恥辱になり申す。
ご好意の程は主にお伝え致しますゆえ、速やかにお引き取りあるべし。
もし引かずば、義重もこの道を動くまじ。
さすれば、互いに遺恨が残りまする。」
政宗は十二郎を見据えて考え込んでいたが、やがて立ち上がった。
「よし、引き上げじゃ!
この政宗に異心なき事、お主の口から義重殿によく伝えよ。
それにしても、お主は年若く見えるに、大事の使者を良く成し遂げた。
名を聞いておこう。
年はいくつじゃ?」
「拙者は、和田昭為が孫・十二郎。生年は十八!」
「家老の和田安房が孫か! 道理で。よし、これをやろう。」
十二郎の態度に感心した政宗は、褒美としてみずからの替鎧を与えた。
堂々たる大将の鎧をかつぎ、
意気揚々と佐竹家の一団に戻った十二郎は、
事の次第を義重に報告した。
「よくやった!
しかしお前確か、年は十六じゃろ?
なぜ十八歳などと偽ったのだ?」
「はっ、十六歳と言って、
もし政宗に小僧扱いされたらシャクだと思い・・・。」
破顔一笑した義重は、厚く十二郎を賞してやった。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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