土井大膳は、元は北条氏の被官であったが、北条氏に背き長野業正の客将となった。
長野氏と武田氏は長年の抗争状態にあったが、
ある戦で長野氏が武田氏に負けて、退却することになった。
殿軍は、土井大膳と赤石豊前の2人が務めることとなった。
ところが、運のないことに赤石の旗指物が、
さいかちの木にひっかかって取れなくなった。
馬上から手を伸ばしても取ることはできない。
「お~い大膳。旗指物が取れなくなった。旗指物を捨てて帰るのは末代までの恥。
何としても取り返したいので助けてくれ。」
大膳は、
「よっしゃ、心得た。とにかく貴様も馬から降りろ。
その木を切って旗指物を取り戻そう。」
と言って馬から飛び降り、
先に退却した殿軍のいる箕輪城の方向に2頭の裸馬を走らせた。
二人は刀を抜いて、
「えっさほいさ。」
とさいかちの大木を切り始めた。
そして、やっとこささいかちの木を伐り、大木は道をふさぐ形で「どうっ」と倒れた。
豊前が、倒れた木から旗指物を取り戻している間に、武田軍の追っ手がやってきた。
「武田の侍は多勢。こちらはたった2人じゃ。存分に働いて討ち死にせん!」
と死を覚悟したころに、先ほど引き揚げた殿軍の一部の10名が、
2人の元に引き返してきた。
聞けば、大膳と豊前の裸馬だけが追い付いてきたので、
「さては大膳と豊前は討ち死にしたか。心配だから様子を見に行こう。」
ということで引き返してきた、とのことである。
そして、「われも俺も。」ということで、
続々引き返してきて総勢100人余りになった。
武田軍は大膳らを打ち取ろうとするも、
さいかちの大木が道をふさいでおりしてなかなか先には進めない。
さりとて、さいかちにはびっしりとトゲが生えており、
乗り越えていくこともできない。
大膳と豊前はさいかちを盾にして、
「ござんなれ!」
陣を組み、両軍はこう着状態となりやがて日が暮れ始めた。
とうとう武田軍の追っ手は追跡をあきらめて引き上げ、
大膳と豊前は無事に箕輪城に帰還した。
業正は二人に対して、
「敵を我が城に寄せ付けず、途中で踏みとどまった大膳と豊前の働きは、莫大な功である。」
として大いに褒めたという。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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