長野業正は、和歌や連歌が上手だった。
ある時、家臣の男が百姓の家から妻を娶った。
ある日のこと、この妻が髪を結んでいると庭を5,6尺ほどの蛇が這っている。
妻は夫である男を呼び、
「見て、オウコ(肥桶を荷う棒)みたいな蛇よ。」
と叫んだ。
それを聞いた男は、
このような下品な言葉を使う田舎者な妻と一緒にいると笑いものにされると、
この妻を親元に帰した。
妻は去り際に、
「万葉の 歌の言の葉 なかりせば 思いのほかの 別れせまじ」
(万葉集の歌の言葉さえ無ければ、このような別れはなかっただろうに的な)
と和歌を1首残していった。
男はそのわけがわからず、いろいろな人にそのことを話した。
それが業正の耳に入り、早速男は業正に呼ばれた。
そして男がその経緯を業正に説明したところ、業正はこう言った。
「これは恥ずかしいことだ。
『陸奥(みちのく)の 千引の石と わが恋を になわばオウコ 中や耐えなん』
と万葉集にも出ているように、オウコという言葉はけして下品な言葉ではない。
それなのに下品な言葉を使ったとして、
離縁したとあれば末代までの恥だ。
早く仲人に頼んで呼び返すべきだ。」
そして男は、業正の言葉通り妻を呼び戻して、復縁したとのことです。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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