上杉謙信が、越中に攻め入った折の事である。
このとき上杉軍は、境川に浮き橋(舟橋)を架けて、前線と本陣との通路とした。
さて前線から田中太郎左衛門という者が使者として本陣を訪れたとき、
謙信は、この田中を読んで、
「浮き橋についてどう思うか?」
と聞いた。
田中これにただ一言。
「長熊手の用意がなければ、危ういでしょう。」
と答えた。
謙信の側にいる者たち、誰一人として意味がわからず、
「何でそんな物を。」
などとざわめくが、
謙信一人は忽ちその意味を悟り、早速長熊手を100本作らせ、
舟橋から、川上に4,5町(約4~500メートル)程の場所両岸に番所を建て、
ここに熊手と共に、人をおいた。
さて、その内に大雨が続いた。
敵は川が増水したこの時に、浮き橋を崩すため上流より、材木を流しかけた。
しかし川を監視していた両岸の番所がいち早くこれを発見。
くだんの長熊手を用いて、材木を引き寄せたため、
浮き橋の被害は少しもなかった、という。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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