ある日のこと、上杉謙信は聴衆に混じって説教を聴いていた。
説教しているのは禅僧の益翁で菩提達磨の『不識』についての話だった。
謙信は、
「俺は禅について多少は知っている。ちょっとこいつを試してやろう。」
と思い、周りの聴衆と同じ格好をして、様子をうかがっていた。
すると益翁は不意に謙信の方を向いて、
「では御屋形様、達磨不識の意味はなんですかな?」
と質問してきた。
しかし謙信は呆気にとられてなにも言えなかった。
益翁は続けて、
「どうなされた。
あなたはいつも禅の話になると弁舌ではありませんか。
何故お答えにならないのです」
と畳み掛けた。
実は謙信は禅についてちょっとした自信があったのだが、
これで彼のプライドは、ずたずたになったのだった。
その後、己の未熟さを思い知った謙信は、益翁のもとで禅を熱心に勉強し始めた。
益翁はいつも、
「真に禅を会得したいならば、
命を捨てて、
死の穴に飛び込まなければならないでしょう。」
と謙信に語ったという。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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