長曾我部元親が朝鮮の唐島という所に在陣した時の話である。
この頃何処からともなく大きな虎が現れ、
あまたの軍兵が食い殺されたので、陣中騒動すること甚だしかった。
浅野孫次郎親忠の家臣、下元勘助・興次兵衛兄弟は、
隠れなき鉄砲上手、大胆不敵の勇者だったので、
目に物みせん!と駆け出でて、勘助が狙いすまして虎を撃つと、
弟興次兵衛もこれに続いて撃ち放った。
ところが虎はこれをものともせず、いよいよ猛狂って本陣へ近づいたので、
大高坂七三郎(この時十五歳)が本陣へは入れさせぬと、
小刀を抜いて一文字に駆け向かった。
虎は七三郎に飛びかかり、その胴体を横ざまに咥え、駆け出そうとしたので、
吉田市左衛門政重、走りかかって虎の首の根を丁と切った。
虎は七三郎を打ち捨てて、市左衛門の首にただ一口に食らいついたが、
かたい鎧のために砕くことができず、市左衛門、虎の喉笛に手をかけて、
七たび刀で突き刺した。
さしもの虎も急所を刺され、鉄砲で撃たれてはかなわず、立ち竦んで死んだ。
七三郎も助かったので、元親大いに喜び、
感状に康光の太刀を添えて市左衛門に与え、帰国後に加恩もあったそうだ。
「その虎の爪を取って、日本の土産にせよ」と元親が言ったので、
市左衛門、畏まり候と虎の爪を切り取って国に持ち帰った。
その爪は子孫持ち伝えて、今も彼の家にあると聞いている。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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