混沌時こそ、チームの納得解を見出し、一早く行動することが未来を創る(センスメイキング理論) | Work , Journey & Beautiful

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今日会社のメンバーとランチをしている時に、それぞれが異なる考え方や価値観を持っているチームが一つになることの難しさについて話していた。

そのチームは、変化の際にある。あるメンバーは「何かを始めてみないと何が起きているかが分からないから、何が最適な打ち手かは分からない。だから、まずは何をすべきかを決めて、行動すべきだ」と主張する。あるメンバーは「とはいえ、闇雲に行動しても事態が改善するわけではないから、綿密な計画がないと不安だ」と主張する。このように、外発的にせよ内発的にせよ集団や組織が変化する際には、多様な意見が場に出てきて混沌とすることがある。

そんな話を聞いていて、ふとセンスメイキング理論のことを思い出した。

組織心理学者のカール・ワイクを中心に発展してきたセンスメイキング理論は非常に面白く、示唆に富むコンセプトだ。センスメイキングとは「組織のメンバーやステークホルダーを納得させ、いま何が起きていて、自分たちが何者で、どこに向かっているかの解釈を集約すること」と言われている。(参照:イノベーションに欠かせない「センスメイキング」とは

もう少し詳しくこの理論を解説していこう。センスメイキング理論は、①環境の感知、②解釈・意味付け、③行動という三つのプロセスを踏みながら、多様な考えや価値観を持つ集団の変化を捉える。

①環境の感知
集団や組織が何かしらの環境の変化を感知するフェーズをいう。ワイクによると、センスメイキングは(1)危機的な状況、(2)アイデンティティの喪失、(3)意図的な変化といった変化が起きた時に生まれやすいとされている。

②解釈・意味付け
このような環境の変化に直面した際に、さまざまな考え方を持つ集団や組織には多様な意見や考え方が生まれる。そして、混沌とした状況に陥る。このような状況において、「今、何が起きていて、自分たちは何者で、どうすべきなのか?」という全員にとっての共通の解釈を生み出すことが重要だとワイクらは指摘している。

③行動
集団や組織に共通の解釈が生まれたのちに、行動が生まれる。行動こそが、環境の変化に適応するために重要な起点だ。行動することで、環境に対する学習が生まれる。学習することで、当初の環境変化への解釈がアップデートされ、結果的に集団や組織にダイナミクスが生まれる。いずれにせよ、その学習は、何かしらの方向に歩みだしたからこそ得られるものであり、行動しない集団や組織に学習も変化も生まれない。

これが、センスメイキング理論の全体像だ。

ワイクらによれば、②解釈・意味付けにおいて、その解釈が客観的にみて正しいか誤っているかよりも、全員が納得できている(思い込めている)ことの方が、集団や組織が環境変化から持続的に学習することを促進する、という。また、行動することはあくまで「起点」であり、そこから環境に働きかけ、集団や組織として学習することで結果的により良い未来を生み出すことができる、と指摘している。つまり、混沌時こそ、チームの納得解を見出し、いち早く行動することが未来を創るーこれがセンスメイキング理論の概略だ。

さて、では冒頭のチームの場合、センスメイキング理論に基づくと「行動すべき」と言っているメンバーが正しく、「綿密な計画を立てるべき」と言っているメンバーは誤っているのか?個人的な体験では、必ずしも、そうではないケースが多い。

例えば、その場にいる殆どの人が「もうこの行動を起こす以外にないでしょう」と思っている状態で、何かしら不安を訴えるメンバーには、何かしら他のメンバーには見えていない現状が見えていて、結果として今選択肢として目の前にある未来が最善だとは思えない何かしらの事情がある。そして、その他の誰にも見えていない現状(環境)をメンバー全員が理解(感知)することが、その環境下で全員が最善だと思える納得解を導き出すことにつながることが多い。この誰かには見えている不安を蔑ろにして、仮初めの納得解(決めなくては始まらないから、妥協した結果としての解)をもとに行動をしても学習は生まれにくい。

特に注意したいのは「何かをしなければ始まらない」という考え方がその場において支配的になった時だ。こういう時こそ、私たちは、誰かの重要な視点を見落としていないか?を自問自答した方がいい。

多様であるということは、同じ環境にあっても見え方・感じ方は人によって異なる、ということだ。その違いを前提に、お互いが見えているもの・感じていることを理解し合うことから、集団や組織の変化は引き起こされるのだろう。