個へのアプローチからコミュニティへのアプローチへ。 | Work , Journey & Beautiful

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オルタナティブな学びを探求する

医療技術の発達に関する文献を読んでいたのだが、興味深い指摘があったので、メモがわりに。

世界的に近代化が進んだ19世紀から20世紀の初頭において、医療分野では特定病因論という考え方が確立した。特定病因論とは、一つの病院には一つの原因物質が対応しており、その原因を特定し、除去すれば病気は除去される、という考え方。なぜ、このような考え方が確立したのかというと、特定病因論的なアプローチは感染症への対策として有効だったから。世界が急速にグローバル化していく中で、感染症が拡がりを見せる中、医療分野に対する社会の要請があったとも言える。

その後、医療技術と衛生技術が発達することで世界的に増加していったのはがん、糖尿病などの慢性疾患だ。これら慢性疾患の主な原因は生活習慣などによるものが多く、何かしらの病原菌を除去すれば治療できるわけではない。そこで重要になってくるのが、予防と環境整備による対処だ。

さて、では現代に目を向けるとどのような状況にあるか?例えば日本の場合、ひとりの人間が一生で費やす医療費の50%以上は70歳以上の高齢期に費やされる。一方、先進国における「人生前半」の医療として多くを占めるのは、うつや統合失調症、アルコール依存や交通事故などの精神的・社会的なものが中心になっている。現代の病は、身体内部の要因のみならず、ストレスなど心理的要因、労働時間や社会との関わりといった社会的要因、自然との関わりといった環境的要因などが複雑に絡み合い、引き起こしている。これらを予防・治療していくために必要なのは、個々に対する治療行為や生活習慣の改善ではなく生活・コミュニティを通したケアである。

感染症→慢性疾患→老人退行性疾患・精神疾患と疾病構造が転換していく中で、特定病因論的アプローチ→予防・環境改善アプローチ→生活・コミュニティアプローチと有効なアプローチが転換していった、という医療分野で起こった≪個人→コミュニティへのパラダイムシフト≫は、昨今働き方改革などで指摘されている個々の生産性を高めればよい、という考え方への批判に通じるところがある。この話はまた今度書こう。