誰が問題をつくり出しているのか?を問うことから始まる | Work , Journey & Beautiful

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オルタナティブな学びを探求する

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とあるクライアントで、その会社の主力商品が開発されたストーリーをドラマにしました。

舞台は80年代。徹夜も厭わぬ情熱で、部門の垣根を超え、世界初の商品を生み出そうとする、ちょっと出来すぎたドラマです。

あまりによくできた話なので、シナリオを書いている最中、「ほんまにこんなうまいこといったんですか?」と何度も当時の方々に質問をしましたが、皆一様に「思い出が補正されとるんかもしれんけど、誰一人文句を言うことなく協力し合ってたんや」と言っていました。

そして今は、現役の皆さんとともに完成したドラマを見て、対話をしています。


ある対話の一幕から


多くの参加者はこう言います。

「こうやって部門の垣根を超えて協力できるのは素晴らしい。でも・・・」

そして一部の人はこう続けます。

「でも・・・今は真逆だ。新しいことにチャレンジしたいと思っても、コンプライアンスを先に考えてがんじがらめになってる。」

このような発言に周りの人も同意します。

「本当にそうだ。二言目にはコンプライアンスと効率化。それは分かるけど、そればかり言われると、要は挑戦するなってこっちは思ってしまう。会社は一体何を考えてるんだろうね。」

ある時、こういう会話を眺めていたある参加者がこう言いました。

「でも、昔よりも労働環境はマシになったってことだよな。」
「誰でもできる仕事は効率化し、空いた時間で挑戦する、ということができるようになってきたよな。」

このような発言から、≪ドラマの世界がポジティヴ/現実世界がネガティヴ≫という分かりやすい認知構造が綻んでいきます。


多くの人と組織が“適応が必要な課題”に向き合っている


ハーバード大学のケネディ・スクールでリーダーシップを研究するロナルド・A・ハイフェッツ教授は、今日のリーダーが向き合う課題は大きく二つの課題に分類されると指摘しています。それは「技術的な課題」と「適応が必要な課題」です。

前者の技術的な課題は、何かしらの技術・技能・知見を身につけることで解決可能な課題です。解決策となる技術・技能・知見を習得することそのものは、容易いものも困難なものもありますが、比較的「何を解決すべきか?何を身につければいいか?」は明確です。

一方で後者の適応が必要な課題とは、その人の思考様式や価値観そのものを環境変化に合わせて適応しなくてはならない、という課題です。この課題は「何を解決すべきか?」が見えにくいものです。

ハイフェッツ教授は、これからのリーダーが向き合う課題は、技術的に解決可能なものから適応が必要なものへと移り変わっていくだろう、と指摘しています。そしてこれは、リーダーだけでなく、あらゆる組織や個人にも通ずることなのではないでしょうか。


誰が問題をつくり出しているのか?を問うことから始まる


先ほど紹介したような対話は、参加者に対してモヤモヤした気持ちをもたらします。

モヤモヤする理由は対話を通して「会社が諸悪の根源である」という分かりやすい認知構造が綻んでしまったから、というのもあります。あるいは「誰が問題をつくり出しているのか?」「いつまでこの問題をそのままにしておくのか?」という問いと向き合わざるを得ないから、という理由もあります。

実際にその場にいて、見て取れるのは「その答えが“自分たち”であること」をすでに多くの人が知っている、ということです。でも、どこかそれをすんなりとは受け止められない“何か”があり、多くの人がモヤモヤしています。その“何か”はどうすれば解消できるのか?その答えもまた、対話を通して探求していくほかないだろうと思っています。そして、そうすることで、多くの組織が抱え込んでいる停滞感や疲労感は必ず解消していける、という確信を持っています。

僕が日本の組織で目にするのは、こういった希望と諦め、責任と恐れ(不安)、自責と他責との間で揺れ動く人たちの変化・移行(トランジション)の物語です。おそらくこの混沌とした移行期を経ずに、僕らは次の価値観を生み出せません。

日本の組織は駄目だなんだと言われることも増えてきましたが(そしてその指摘の中には、少なからず的を得たものもあります)、移行の先にはとても素晴らしい未来が待っているかもしれません。待っていないかもしれません。ただ世界は必ず変わっていきますから、「いつまで経っても何も変わらない」ということはない、ということだけは確かです。

多くの人に伴走させていただきつつ、自分自身も組織を率いつつ、この移行の先にあるものを僕は見てみたい、と思います。