僕がこれからソーシャル・イントラプレナーの輩出に取り組む理由 | Work , Journey & Beautiful

Work , Journey & Beautiful

オルタナティブな学びを探求する

先日、とあるイベントに参加しました。そのイベントでは起業家、ないしは大企業等で新規事業・社内ベンチャーの立ち上げに携わっている人材(イントラプレナー)が集まり、議論を交わしたのだけれど、そのイベントのまとめともいえるこの記事が素晴らしい内容なので是非皆さんにも読んでいただきたいと思っています。
ヒットの裏にはWhyあり。ビジネスマンと起業家が考えた、仕事の意義の見つけ方。


・「ビジョナリー・カンパニーでは、基本理念(Why)の力が比較対象企業よりも、遥かに強い」

・累計再生回数が1,000万回に迫る、TEDでのサイモン・シネックの講演「Start With Why(邦題:優れたリーダーはどうやって行動を促すか)」は、アップルやライト兄弟といった世界を動かすイノベーションの背景には、圧倒的な「Why(なぜそれに取り組むのか?)」の存在が不可欠であると指摘

・では、本当に突き抜けるために必要なWhyを育むためには、どんな営みを行うべきなのか?

・現代の日本に生きる自分たちにとって「なぜWhyが重要か?」

・「自分でWhyを深堀りし、自分でWhatに迷い、Howにトライしながら、試行錯誤して、自分のWhyやWhatを見つけていく」という営みは、これまで巨大システムに守られ、経済的に世界最高水準に達した現代日本の我々が、次にトライすべき課題です。そしてそこには、これまでなかった「自前のWhyやWhatを見つける」という、社会に対して手触り感に溢れた経験が待っています。

・この、多くの人が「社会に手触り感を持つ」ための一番の近道は、実際にこのステップを踏襲し、既存の社会の枠組みにないWhy、Whatを自分自身で模索し、突き抜けて成功する存在を多く創り出すことにあります。(略)Whyからスタートした企業が、既存の社会・企業をひっくり返す事例(=イノベーション)に事欠かないからこそ、多くの人が自分でWhyを模索するという循環が起きています。

・このような動きを日本でもどんどん加速させ、Whyから初めて、突き抜ける営み、イノベーションを増やしていこうじゃないか、というのが、今回の議論のスタートラインとなった話です。



どうでしょう?これはまだ議論の入り口なのですが、非常に刺激的なテーマではないでしょうか。記事には、社会に密接につながるWhy、What、Howそしてインパクトという流れを作りながら次々と社会にインパクトを与えるエコシステムを構築するための考えが提示されており、またイベントでも議論された内容がまとまっていて、その質の高さはさすが!の一言。

■Why、What、Howのシステムの全体像
スライド05
(YLOGオルタナティブより転載)


僕自身この非常に刺激的なこの議論に参加しながら、まさに僕がクライアントとともに作り上げていきたいシステムであるなぁと感じたわけですが、本記事では議論および記事を読んで感じたことを改めてまとめあげつつ、自分自身のWhyと向き合う、そんな個人的な試みを繰り広げてみようと思います。

さて、僕がこの議論に参加している最中に、世間的には全く無名だが、大企業においてグローバルに活躍する二人のリーダーの話を思い出していました。


グローバル、ダイバーシティ、そして完全アウェーな環境。それでもパフォーマンスを発揮したリーダー


一人目のリーダーはとある某国内大手企業のサービス部門(アフターフォロー部門)のマネージャー。以前はシンガポール支社の副支社長だった。僕はそのシンガポール支社時代の彼の体験についての物語である。シンガポール支社は300名ほどの組織で、現地スタッフと海外からのマネジメント層、そして現地人の支社長がおり、日本人は彼以外に一人もいない、という環境であった。その支社はつい数年前にその会社に買収された組織であり、社長含め現地スタッフはほぼそのまま会社が引き継いだ。つまり送り込まれた日本人以外は、ほぼ全て昔から会社を切り盛りしていた人達で占めており、そんな環境に彼は送り込まれたのだ。しかし、その支社は問題を抱えている、と本社から考えられていた。「本来は前年比200%で成長することができる筈なのに、130%でしか成長していない。」彼はこの問題を解決するべく、この支社に送り込まれたのだ。

少し想像力を働かせば、これがいかに困難なミッションであるかが分かる筈だ。すでに市場も確立し、業務の流れも、組織も固まっている。そして何より前年度比130%と順調に成長もしている。そんな中で本国から送り込まれた人材に現地はどう対応するか。想像に難くない。実際、表面的には歓迎されたが、完全にお客様扱いをし、重要な情報は彼のもとに流れてこなかった。意思決定は彼抜きで行われた。

結果、彼は二年間をかけて、問題を解決した。今その支社はその会社において最も成果を上げている支社の一つである。彼が何をしたか、それは徹底的な信頼関係の構築とファクト=数字に基づいたマネジメントだった。

彼が本社から課せられていたミッションは売上を飛躍的に向上することだったが、売上そのものは遅行指数であり、それそのものをコントロールすることはできない。しかし、その組織には遅行指数となる売上と相関する先行指数(KPI=重要業績評価指標。現在のビジネスの状態を示すものとして使われ、今後の対応策でどうなるかを予測するのに使われる)が必ず存在する。まずこのKPIが何であるか?を明確にすることが重要だった。なぜならばKPIが明らかになってはじめて、これまでのやり方が正しいのか改善を要するのかが明らかになるからだ。

このKPIを明らかにするためにはありとあらゆる数字が必要である。個別のセールス担当者が案件をどれだけ抱えているか?訪問数はどれだけあるか?電話は何件?クレーム発生数は?マネージャーの帯同訪問数は?ーおよそカウントできるものはすべて数値化し、遅行指数である売上=営業成績と照らし合わせ、統計的に有意な相関が認められる要素は何か?を洗い出すことではじめてKPIが定められる。この数字を洗い出す作業が非常に困難だった。なぜならばマネージャーに依頼をしても、正確な数字は出てこなかったから。そこで彼は一セールス担当者として振る舞い、実際に現場をまわりながら、周囲と人間関係を築き上げつつ、周囲のセールス担当者の動きを観察し、分析し、半年後とある部門のマネージャーに彼の戦略を提示した。「これまでのやり方は尊重する。ただ、自分は○○がKPIであると考えているので、少し■■という行動をして成果が上がるかどうかを一緒に分析してくれないか?」と。こうして、ある部門のマネージャーを説得し、KPIを設定し、PDCAをまわし、彼は成果を上げた。その後、その取り組みは支社全体に拡がっていった。

勿論、彼自身はじめからこうやって上手くいくと考えていたわけではない。どうすればよいのか、と悩んだ末に行動した結果、事態が好転していったのだ。現場周りをしているとき、実際に自分なりのKPIを提示したとき、実際にPDCAをまわしているとき、「正直に言うと、自分がやってることは正しいのか?、という思いはあった」と彼は話していた。では何が彼の原動力となったのか。完全にアウェイな環境、困難なミッション、非常にタフな道程を歩むことができたのは、何が要因だったのか。彼の言葉で言うならば“パッション(情熱)”である。「自分は本当に、この会社を世界的に大きくすることに意義を感じている。この想いがなければ、自分も周りも動かない。」

疑いようもなく、彼は非常に優れたリーダーである。教養として統計を理解し、コミュニケーション能力に富んでいる。何よりそれを身につけようとしたのは理念に共感し、非常に強い情熱を持っていることが彼の優れたリーダーシップの根底にある。シンガポール支社を後にした彼は本社のサービス部門のマネージャーになり、全世界のリテンション防止(客離れの阻止)に取り組んでいる。ここでも、顧客のリピート率という遅行指数に対して、KPIを設定し、そのKPIを改善するための施策として人材育成に取り組んでいる。(余談だが、KPIを正しい手順で設定しているため、ほぼ確からしい精度で研修の費用対効果も測定されている)

なぜ、それほどの情熱を持ちえたのかを彼に質問すると、「うちの会社の理念に○○というのがあるんだけれど、これは■■という社会を作る、ということだと思っている。」「例えば▲▲という地域では★★で悩んでいる人がいる。そんな生活を根本から変えることができる。そのために当社は存在していると思うんだ。」といった話を情熱的に語ってくれる。論理もさることながら、この語り口調に魅せられた人も多いのだろう。何より自ら会社の理念を社会的な課題と結びつけ、自分の言葉でビジョンを話す彼の姿には率直に感銘を受けた。

名著「ビジョナリー・カンパニー」において卓越した業績を継続的に出し続ける企業(ビジョナリー・カンパニー)とそうではない企業との違いとして、確立した基本理念を有していることが上げられているが、その体現のような話である。社会と密接につながった基本理念(Why)は、優れたリーダーシップを最大限引き出すのだ。


とある日系企業の韓国人リーダーのチャレンジ


とある日系企業の案件で僕らは韓国法人のとある女性リーダーにインタビューをしていた。様々な商品群を有する大企業の韓国法人において、彼女はとある機材を取り扱っていた。しかし、その分野には既に強固な基盤を有する競合他社が既にシェアを独占しており、後発組のその会社としてはシェアを拡大できずにいた。機能や価格でも差別化がほぼ難しく、コモディティ化した業界であったため、客も「おたくの商品と他社との違いがよくわからない」と口を言われていた。実際には機能面で差別化ができるのだけれども、レッテルを貼られてしまい、中々顧客の理解を得られなかったのだ。

そこで彼女は打開策を考えた。そこで彼女がとった行動は、日本の本社及び本社が手がけている社会貢献活動を体験する訪日ツアーを企画し、実際に韓国の顧客をそのツアーに参加させる、というものだった。特に社会貢献活動はその会社の理念をまさに体現した営みである。その活動を実際にシェアすることで顧客に対して「当社は単なるメーカーではなく、社会をよりよくする会社なのだ」ということをアピールすることが狙いだったのだ。そして彼女の目的は達成された。実際にツアーに参加した顧客は続々とそのクライアントのファンとなり、実際にこれまで入り込めなかった市場に風穴をあけることができたというのだ。

勿論このツアーの費用は彼女の会社が持つことになる。凡そ社内の説得も容易ではないはずである。そこで彼女になぜそのような行動ができたのか?疑問に思った僕らは直接質問を投げかけた。

「私自身この会社の理念は本当にすばらしいと感じている。お客様に当社のファンになってもらうためには、やはりこの理念を頭ではなく体で理解してもらうことが重要だと確信したのだ」

これが彼女の回答だった。このインタビューで我々が学んだのは理念(Why)、そしてその理念を基盤として実現される社会的な価値は、顧客と共有することで、自社に対するロイヤリティ向上にもつながる、ということだ。これもまたWhyのもつ力の一つであろう。


組織人事の観点からみた、社会と密接につながったWhyを持つリーダーを生み出す必要性


ここ数年の僕の仕事のテーマ=Whatを一つの言葉で括ると「ソーシャル・イントラプレナーを輩出すること」だといえます。イントラプレナー(イントレプレナー)とは社内起業家のことを意味します。そこにソーシャルと冠をかぶせているのは単に収益・利益をあげることを目的とするのではなく、社会と密接につながった理念(Why)を持つイントラプレナーを組織の中から輩出することをテーマとしているからです。また、イントラプレナーというと新規事業や社内ベンチャーの責任者がイメージされがちですが、僕の定義では、社会と密接につながった理念(Why)を持ち、自ら事業を牽引している人を指しています。 例えば先述した優れた2人のリーダーもまさにソーシャル・イントラプレナーだと思っています。言わずもがなですが、このようなソーシャル・イントラプレナーを輩出することは企業にとって大きな意義がある、といえるでしょう。この二人の優れたリーダーが教えてくれるように、ソーシャル・イントラプレナーは、例え困難な状況であろうと、社内、社外を問わず他者を巻き込み卓越したパフォーマンスを上げることができます。そしてその存在そのものが組織の活性化・変革につながるでしょう。 またこの他にも事業のサステナビリティ(継続性)を鑑みた際にグローバルな観点でも国内で事業展開をする上でも必要不可欠であるといえます。


グローバルなビジネス展開に不可欠なCSV(Creating Shared Value)へのシフト


近年特にグローバルにビジネスを展開しているクライアントと議論をしている際にキーワードとして出てくるのは「CSR(corporate social responsibility)からCSV(Creating Shared Value)へのシフト」です。このシフトは、CSR(企業の社会的責任)という概念が、やや本業と縁遠いところで営まれていたのに対し、これからはより本業そのものが社会的な意義を持っているかどうかが問われるようになったということを意味しています。CSVとは(市民、生活者との)共有価値の創造、です。ここまでの文脈にのせて説明するのであれば、CSVとは社会と密接につながる理念(Why)をもち、Whyに基づき事業(What)及びビジネスモデル、バリューチェーンなど(HOW)を構築しながら事業経営をすることと言えるのではないでしょうか。

CSVという言葉が注目されている背景には、今まさに現在進行形である生活者意識の世界的な変化が存在します。人口90億人時代の到来は確実であり、有限な地球資源の枯渇問題は間違いなく今以上に生活者にとって身近なものになるのは疑いようもありません。長く伸び切った企業のサプライチェーンは過去地球上のいたるところで生物多様性を犠牲にしています。天候変動や地質の悪化はすでに特定地域に住む人々の生活に多大な影響を与えています。少子高齢化社会は世界的に進む。グローバル化はヒト、モノだけではなく、カネの爆発的な移動を可能にしました。今や一国家で何かしらの施策を展開したところで、期待される効果が見込めるかどうかがこれまで以上に分からなくなっています。このようなおよそ容易には解決策が見出せないような状況に直面する中で、生活者の企業を見る目が大きく変わるだろう、と言われています。自分たちの生活をともによりよいものにしてくれる企業か、脅かす企業か、このような視点で企業はその存在意義を問われることになるのです。

また、このような生活者意識の変化をより確かなものにしようとする動きも存在します。例えば2012年の地球サミットで採択された“自然資本会計”、IIRC(※)による統合フレームワークなど、世界的な情勢として事業の生物多様性・地球環境への影響を数値化し公開する動きも活発化しています。これらの動きをグローバル・マーケットで牽引しているのは、トップクラスの一部の欧米企業であり、これは今後台頭するアジアに対する機能・価格価値に変わる価値基準を世界水準化し、競争優位を確立する狙いがあるのかもしれません。いずれにしても世界的に権威と権力のある人材が集まり、作り上げようとしている国際的なルールの変更は私たちの生活とビジネスのあり方に大きな影響を与えることになるのではないでしょうか。
※IIRC=Mervin King 教授を議長とし、証券監督局国際 機構(IOSCO)、国際会計基準審議会(IASB)、国際連合、世界銀行を含む国際団体、企業、投資家、NGO、会計事務所及び会計士団体の代表者又 はその代理から構成されている統合フレームワーク策定委員会。これまで財務情報とCSRなどの企業の責任のもと報告すべき事項がそれぞれ個別に存在していたものを統合し、標準化しようとしている

このように世界的な生活者の意識もそれを取り巻くビジネスのルールも大きく変化しようとしています。CSVが実現できなければ事業が存続できない可能性が高まるのです。このようなCSVを実現するリーダー(ソーシャル・イントラプレナー)を輩出できるかどうかがその企業のグローバルなビジネス環境での立ち位置を大きく左右する、と言っても過言ではないでしょう。


国内では顧客とのつながりだけではなく社会とのつながりの中にWhy/Whatを見出せるか?が鍵となる


ここ数年、様々な組織を管理職層の強化というテーマで支援させてもらっていますが、その設計の過程で実施する現場の管理職へのインタビューやアンケートでは「経営層が具体的な方向性を示してこないので、動くに動けない」「中期経営計画で全体的な施策は示されているけれど、総花的すぎて、結局何が重点施策なのかが分からない」といった声がよく聞かれます。このような現象は、日本の多くの組織が置かれている現状を顕著に表しています。本来会社の方針をいち早く理解し、具体的な施策として各部門に展開する立場にある管理職という立場にありながら、自分たちの進むべき方向性が見えずに右往左往してしまっているのです。

先のBlogにも紹介されていた日本の現状と内容は重複するところがありますが、過去国内の人口が増加し続け、経済が発達し、欧米に追いつくという目標を掲げていたころは、自分たちの会社の事業のWhyやWhatを問う必要はありませんでした。市場は発達しているので、考えるべきはHOW(いかに競争相手よりもはやく、よりよいものを、より安く顧客に提供できるか?)を考えていればよかったのです。護送船団方式と呼ばれますが、国を挙げて産業を活性化し、経済を成長させ、国民一人一人の生活水準を向上するという大義名分のもと、目の前の事業に必死に取り組むことが働く一人一人にWhyとWhatを与えてくれていた、とも言えるでしょう。 しかし、現状、欧米に追いつくという日本全体としての目標を喪失し、人口増加による経済発達ボーナスも終焉し、様々な商品がありふれたものになり、日本の目の肥えた消費者向けに特化して高度に発達した技術は世界ではなかなか売れない。このような環境の中で、HOWだけでは事業が成り立つ時代が終わって10年以上が経とうとしています。とはいうものの、これまでHOWに特化して成長してきた体験から抜け出せずいます。 このような現状と直面し、様々な組織が社会との接点の中に自らのWhyを求めようとしています。それはこのような某大手BtoB企業のマネージャーの発言からも見てとれます。

顧客接点において、当社はこれまで多様かつ難易度の高いニーズに応えてきた。しかし、それは顧客側に何が欲しい、こうしてほしい(What)が明確に存在していたときに発揮される強みでしかない。しかし今の時代、顧客に何が欲しいかを聞いても明確に欲しいものは出てこない。だからこそこちらからもっと提示していかなくてはならない。にもかかわらず、知らず知らずのうちに当社は目の前の顧客接点に焦点を当てすぎて、社会とのつながりが薄れてしまった。だから今、当社は原点回帰をしなくてはならないのだ。(某大手BtoB企業のマネージャー)


なぜ、僕はソーシャル・イントラプレナーを輩出したいのか?


このような企業の現状、そしてそこに見え隠れするニーズと直面する日々を送り続けている自分にとって、Blogで紹介されていた自ら社会と密接につながるWhyをベースとするエコシステムには大いに共感できますし、必要性を強く痛感するところでもあります。

何よりこの流れを自分も作りたい、と感じています。それはこの流れを作ることは今まさに過渡期にあるこの国の社会モデルを次なるものに変化させる突破口になるんじゃないかと思ったからです。そう考えると非常にワクワクする。だから、今自分はこの事業をやっていたのか、、といった感覚が一気に深まるのです。

僕自身、今の会社を経営することになり様々な国の様々な教育のあり方を調べてきました。様々な方から例えばフィンランド、スウェーデン、オランダ、アメリカ、シンガポール、韓国、オーストラリアなどの教育のあり方を教えていただきました。やはり教育先進国と呼ばれる国の教育制度には目を見張るものがあり、大いに見習うべきものが少なくないと感じています。しかしだからといってでは単純にそれらと日本の精度を比較して、日本の教育がおかしい、というのもあまりに短絡的過ぎます。あるべき姿と現状とのギャップがイシューとすべき問題なのであって、断片的に目に見える違和感や問題点そのものに捉われ過ぎると全体像を見失ってしまいます。

最も注目すべきなのは、それらの国の教育には前提として国際的にどのようなポジションをとっていくのか?という明確なビジョンがあり、そのビジョンを達成するために最適化された手段の一つとして教育の制度や仕組み・授業形式・カリキュラムなどが設計されている、ということです。これは教育だけではありません。このようなビジョン達成に向けて、教育も、政治も、社会システム(例えば雇用や年金、福祉制度など)も様々なものが最適化されている、というのがあるべき姿なのではないかと思っています。

では日本の問題は何かというと、これは教育にしても政治にしても同じですが、このビジョンの欠落だと思っています。日本は上述の通り、目標を喪失し、新たなビジョンを再構築できずにいます。これだけ物質的に満たされた社会でどうすれば豊かになれるのか。グローバル化が進み・課題が高度化・複雑化する社会の中で、どのように日本人がポジションをとればよいか。そのためにどのような人材を輩出していくべきなのか。もちろん程度の差はありますが、教育とは電車のレールのようなものです。おそらく10人に1人はこのレールを自分で作れたとしても、9人はこのレールの上を歩くことしかできないでしょう。この比率は過去も今もそして今後もあまり変わらないし、全員にレールに乗るらずに自分で作れ、と求めるのはナンセンスなのだと思います。問題はビジョン、つまり10人中9人の人が身を委ねることになる教育というレールの先に「何もない」という状況にある、ということです。

このビジョンは一朝一夕に構築できるものではありません。およそ容易に答えが導きだせるものではないと思っています。だからこそ、今は次々とこれからの社会の中で日本人として豊かに生き抜いていくモデルケースを次々に生み出していくべきだと思っています。

しかしこれは悲観すべき話ではなく、むしろ可能性に満ち溢れた話だと思うのです。これだけ成熟した社会の次のモデルを模索するという時代に生まれ、正解など存在しない中で思い想いにチャレンジできるー考えようによってはこれほど運の良い世代はないのではないかと思うほどです。

そしてそのチャレンジは新しい組織や若い世代から、だけではなく既存の組織の潮流の中から輩出することもまた、モデルケースを作り上げていく上で重要なのとだと思っています。これがどちらかというと従来型の組織、既存の大企業と向き合い続けている僕のミッションなのだと思います。そしてその実現可能性が高いモデルの一つがソーシャル・イントラプレナーであり、これを生み出すことが僕のWhyだと思います。


どのようにすれば、ソーシャル・イントレプレナーを輩出できるのか?


では、どうすれば組織の中でソーシャル・イントラプレナーを輩出すればよいのでしょうか。はじめからそのようなWhyをもつ人間を探してくるのでしょうか?あるいはまずはWhyを醸成するような育成を行うのでしょうか?

その答えは半分YESです。先述した二人の優れたリーダーのストーリーは日常の業務の中で埋れてしまい、発見されにくいように思います。特に財務的成果を重んじる組織文化である程、その傾向は顕著な気がします。そのような組織ではこういったソーシャル・アントレプレナーを発掘し、組織内に広げていくようなシステムを作り上げることことが重要でしょう。

もちろんそういう方がいればよいのですが、そういうWhyを持っている人はこれだけ起業や挑戦がしやすい時代に、レアケースを除き既存の組織の中には中々存在しなくなりつつあります。

ちなみに先のブログ記事には次のユニークな視点が示されています。

イントラプレナーの間からは、(略)Howに最初取り組みながら、Whyの深堀りに立ち返るという話が多く聞かれました。自分の目の前のビジネス、商売に注力して仕掛けをするうちに、

「どうやったらそれは売れるのか?」

「どうやったら、自分の顧客に喜んで貰えるのか?」

ということを考えたり、実際にお客さんのリアクションを見ながら

「なるほど、こういうことには、こんな価値があったのか・・・」

というWhyの深まりが起きます。

これが徐々に昇華していくことで、Whyが深まり、取り組む意義を見出すことができ、それがWhatやHowに深みを与え、施策のインパクトが高まる。


この視点は、自分の実体験と照らし合わせても実にしっくりきます。

僕がこの会社の経営をすることになったのは、「お前に任せる。新しい事業を作ってくれたらいいから。」といきなり任された、といってもいい状態で今のポジションにつきました。それから一年間ほどが経ちますが、はじめは事業計画の立て方も資金繰りシミュレーションの方法も分からず、また商品も何も決まっていない中で、わずかばかりの親会社の仕事の委託を受けることで得られる売上とそれをはるかに上回る経費を払い続けて赤字が積み重なっている状況を何とかするところが先決でした。

まず、毎月の売上をなんとか生み出しつつ、一方でビジネスプランを考えるにあたって、様々な勉強会を自らひらいたり、参加したり、「教育」という軸を定め様々な教育現場の方のインタビューをしたり、NPO法人の話を聞いたりと組織の外へ外へと話を聞きに歩き続けました。これも別にWhyを探求しようという明確な思惑があったのではなく、安定した収益を得るためには、誰かにとって金を払ってでも解決したいと感じる絶対的な価値を事業の価値として取り込んでいなければならない、と考えていただけでした。つまりこの段階でも、どうすれば新しいことを行い、収益が上げられるか?=Howを考えていただけでした。

そうして実際に教育現場の人達の話を聞いたり、海外の教育事例について話を聞かせてもらうにつけ、日本の教育のあり方に問題意識が芽生えていきました。はじめはぼんやりとしていた問題意識が徐々に磨かれていき、今にいたっています。

その磨かれていく過程はまさに様々な商品を作っては、顧客の反応を見ながら試行錯誤を繰り返す中で徐々に徐々に磨かれていきました。このように、はじめはHowを追求しているはずが、Whyに深まっていき、気付けばWhy⇔Whatを行き来している中でどんどんWhyが磨かれ、Whatが取捨選択されていく。このような流れがソーシャル・イントラプレナーとしてありうるパターンなのかもしれません。

では全てのイントラプレナーが全てHowから入ってWhyに行き着くのかというと必ずそうというわけではないように思います。そこで、(まだ自分の営みは語るに落ちるところもあるのですが)最後に自分自身が社会とのつながりの中から事業を考える上で役に立った、重要だった、と考えてることをいくつか取り上げたいと思います。

積極的に社会とのつながりを求めて歩むこと


社会の課題を発見するためには一つの組織の枠組みの中で物事を見ていては世の中を俯瞰して捉えることは難しくなります。先に紹介したBtoB企業の顧客接点から社会接点へのシフトがまさに顕著な例なのかもしれません。だからこそ、様々な立場で様々な問題に取り組んでいる人達の考え方や物事の捉え方を積極的に理解し、自分の中に取り込んでいくということが重要ではないかと思います。

安心して語れる仲間を見つける


様々な人の話を聞き、面白いなぁと思ったことやこれが自分にとってのWhyなのではないかと感じたときに、率直に話せる仲間に恵まれていたことが非常に僕自身の心の支えになりました。例えば上述のような様々な団体・組織・人の話を聞きにいくという行為が即座に売上につながるわけにはいきませ。そんな中で、自分はもっと数字にコミットすべきではないか?こうやって金になるかならないかも分からない人の話を聞くべきか?と心が揺れることも1~2回ではありませんでした。そんな中で、自分にこのままWhyを探求しようと思えたのは、いつも僕の話を聞いてくれ、受け止めてくれる仲間の存在です。安心して対話する中で、率直に自分が考えていることを発話することで気づき、フィードバックを受け取ることで深まる、そんなことを繰り返していくことで自分自身のWhyが深まっていったという実感があります。

Why/What/Howのどのステージにいるのか?という問いに立ち返ってみる


僕はこのイベントで、Why/What/Howのフレームで自分がどこにいるのか?を周囲の人と話し合う時にふと気付いたのです。意外なことに自分がどのステージにいるかが即答できないんだということに。それ以来、自分は一体どのステージにいるのだろうか?自分にとってのWhy/Whatとは何なのだろう、と考えたからこそ、上述のような僕自身のWHYを改めて認識することができました。このようなシンプルなフレームワークはそれだけで根源的な問いを与えてくれるパワフルなものですが、他の方と共有しやすいというのも特徴だと思います。是非、安心できる仲間と今自分はどこにいるのか?を率直に話し合い、フィードバックし合うことで味わい深い気づきが得られるのではないでしょうか。

システム思考で物事を捉えること


様々な現象と向き合っていると、それそのものをどうすれば解決すればよいのだろうか?と考えがちです。あるいは素晴らしい事例を見つけると、どうにかしてそれを転用できないだろうか?と考えがちです。そういったときに表層的な部分だけ捉えるのではなく、どのような影響要因があってこの状態が生まれているのか?それぞれの影響要因がどのような力関係にあるのか?をシステム的に捉える、ということが短絡的な思考に陥らないように自分を保つ上で非常に役立ったように思います。

頭で考えすぎず、心をオープンに開くこと


個人的にはこれがもっとも大切なことではないかと思います。Whyは、本気で、心の底から「これをやりたいのだ」と言い切れるようなものでなければ長続きしない、と考えているからです。これは僕個人の話なのですが、様々な課題を発見すると、それそのものがビジネスのシーズなのでついついどうすればこれを収益につなげられるか?を考えてしまいがちでした。しかしそのビジネスに取り組んでいる自分を想像したときに、自分自身がイキイキと取り組んでそうなのか、そうでもないのかは明確に分かれます。心をオープンに開き率直に自分が楽しそうだと思えるかどうか、率直に感じ取ることが重要だと思います。


長々とした記事でしたが、この記事をまとめることで、自分の考え、自分の想いがずいぶんと整理できたように思います。
吉沢さん、お誘いいただいてありがとうございました。
ヒットの裏にはWhyあり。ビジネスマンと起業家が考えた、仕事の意義の見つけ方。


最後までお読みいただき、ありがとうござました。