学ぶ動機をどのように考えるべきか? 内発的動機・外発的動機の2元論を越えて考えるべきこと。 | Work , Journey & Beautiful

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東京大学大学院教育学研究科長 市川伸一氏の「学ぶ意欲の心理学 (PHP新書)」。学習意欲の動機付けについて、よく報酬などのインセンティブを与える外発的動機付けか、本人の「学びたい」という気持ちを喚起する内発的動機付けの二元論で語られることが多いのですが、本書では学習内容の重要性と功利性という軸で、学習動機を6つに分類していて、これが中々考えさせられます。

■6つの学習動機

これら6つの学習動機に優劣があるわけでもありませんし、人によってどの要素が高く、どの要素が低いかというバランスは異なります。また、発達段階によっても変化する、と言われています。(現に、「報酬志向」や「関係志向」は小学生の段階で見られるのに対し、「実用志向」や「充実志向」は高校生になって発達します)

内発的動機付けがよくて、外発的動機付けが悪い、わけではない。
(僕がそうだというだけですが)どうにも動機付けを内発的か外発的かの二元論で議論するとき、内発的動機付けの方が外発的動機付けよりもすばらしいことであるかのように語ることが少なくありません。研修を受けることそのものを評価する仕組みは内発的動機付けを損なうので止めましょう、などといった発言がまさにそういったものです。(とはいえ、研修受講を評価することはオススメできない制度ですが)

しかしこの図を見ていて感じたのは、おそらく人によって学習意欲のスイッチの入り方が色々とあり得るのであって、それが本人の学びたい・鍛えたいという内発的な意欲であろうと、報酬が得られるから学んでいるから学ぼうといった外発的な意欲であろうとその違いそのものに尊卑の差があるわけではないということ。それこそ、「人による違い」。内発的な動機付けにのみ配慮したインセンティブなどを設計することはそうではないスイッチを持っている人の機会を損なうわけです。

つまり確かに内発的な動機付けにも配慮して制度や仕組みを考えることも重要ですが、かといって外発的動機付けにあたるものもちゃんと設計しておかないと人それぞれに持っているスイッチを押すことはできない、ということです。これは我々人材開発の仕事に関わっているものであればきちんと理解しておくべきことかもしれません。
※「社会人の「学習意欲」を高める」(リクルートワークス研究所)は年代による学習意欲の変遷をこの6つの動機から分析しており、中々参考になります。


他者に対して「なぜ学ばないのだろう?」と思うよりは「自分はどうすればスイッチが押されるのだろう?相手はどうなのだろう?」と思う方が建設的である。
これはとりわけ(僕もそうですが)「充実志向」「訓練志向」の人達の口から発せられることが多いのですが、「学習って楽しいし、なんで学習しない人は学習しないんだろう?」みたいな発言は建設的でないことが分かります。なぜなら人によってスイッチの押され方が違うのだから、充実志向・訓練志向の人とは根本的に意欲の感じ方が違うわけであり、そんな相手になぜ自分と同じ感じ方ができないのか?と考えてみても仕方がないわけです。

これは例えば学校教育でもよくある問題で、先生自身が「◯◯(例えば数学や英語学習)はおもしろいものだ」という充実志向が強い一方で、学ぶ生徒は実用志向が強く、社会でどう役に立つかを教えてもらえないからモチベーションが上がらない、なんていうのが典型的なものでしょう。この場合、先生が生徒のモチベーションを高めるために考えるべきは「いかに数学(や英語)を学ぶ楽しさを伝えるか?」ではなく「(相手が実用志向が高いのであれば)いかに社会に役立つかを伝えるか?」であるということになります。

このように相手の学ぶ意欲を高めるためにどのようなアプローチが有効であるかを検討する上では、自分のスイッチの入り方と相手のスイッチの入り方とは別であるという認知を持ち、相手のスイッチの入り方にあったアプローチを行うことが重要だということです。そのためにはまず自分がこの6つの動機の中でどのスイッチが“強い”かを理解しておくことが出発点になるかもしれません。

積極的学習者、消極的学習者、学習拒否者、、なんて区分もあったりします。そして、ついつい消極的学習者、学習拒否者に対して「なぜこの人は学ばないのだろう?」と考えてしまいがちです。勿論はじめはどうすれば学んでもらえるか?を考えて色々と考えてみるのですが、成果が上がらないと結局「なぜ学ばないんだ?」という思考に捉われがちです。しかしそれが単に自分の学習への動機付けのパターンを相手に押し付けているだけで、相手に合わせたアプローチを考えていなかったのであれば建設的なアプローチであるとは言えないでしょう。


学ぶ意欲の心理学 (PHP新書)/PHP研究所