数年前から韓国の小説を少しずつ読んでいます。
最近、軽い気持ちで手に取ったのが、ハン・ガンさんの『菜食主義者』。
いや、本当はハン・ガンさんの違う小説を読みたかったのですが、手に入らなかったので💦なんとなく軽やかな響きのあるタイトルできめたんですよ。
そうしたら・・・。
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めっちゃくちゃヘビーな小説だった・・・😱
あらすじはこちら
ごく平凡な女だったはずの妻・ヨンヘが、ある日突然、肉食を拒否し、日に日にやせ細っていく姿を見つめる夫(「菜食主義者」)、妻の妹・ヨンヘを芸術的・性的対象として狂おしいほど求め、あるイメージの虜となってゆく姉の夫(「蒙古斑」)、変わり果てた妹、家を去った夫、幼い息子……脆くも崩れ始めた日常の中で、もがきながら進もうとする姉・インへ(「木の花火」)―3人の目を通して語られる連作小説集。
韓国の女性は日本の女性よりだんぜん気が強い印象があるんですけど、女性の生きづらさや抑圧され具合は、日本よりもひどいように感じていました。
それを体現しているのが、この妻・ヨンヘではないでしょうか。
地味で目立たない彼女は、生まれ育った家族からも、結婚によってできた新しい家族からも、抑圧され続けます。
その結果、彼女の心は静かに蝕まれていく。
それは「肉食を拒否して日に日にやせ細っていく」なんてもんじゃないんです。
誰の前でも平気で裸になり(服を着るのがいやなんです)、樹木と一体化しようとし、もはや狂気に陥っている。
でも、それはヨンヘを都合のいい家政婦だと思ってきた夫や、自分勝手に利用する姉の夫、思いどおりにならないヨンヘをぶん殴って見捨てる父親、無関心な弟などなど、男たちのあり方のせいではないかと思います。
まあ、同じ女性である母親もまた、彼女をまったく理解しようとはせず、完全に見捨てていますけどね。
唯一、最後の最後までヨンヘを見捨てない、というか見捨てられないのが姉。
姉は、ヨンヘと夫がヤりまくっているビデオ(それは一応、芸術家の夫の「作品」なんですわ。はあ)を見てしまい、警察につかまって保釈された夫が行方不明になり、幼い子どもを抱えるシングルマザー社長として会社経営と家事育児に疲れ切っているんですが、どうしてもヨンヘとの関係を切れない。
ギリギリのところで助けてしまう。
ヨンヘの恐ろしいほどの壊れ具合とともに、姉の心理も本当にやるせないです。
姉もまた家族に課せられた、そしてそれを内面化した「良い子」の呪縛から逃れられないように見えるから。
家族によって壊れていく女性たちを描くこの小説。
家族はすばらしい!
家族は愛のみで結びつく存在だ!
濃密な人間関係こそが今の日本には必要なのだ!
と、妄信されている方にこそ、ぜひ読んで欲しい。
そうではない家族、家族によって苦しむ女性がたくさんいることを、少しでもいい、知ってもらいたいから。
ハン・ガンさんは韓国で最も権威ある文学賞といわれている李箱(イ・サン)文学賞を受賞した女性作家です。
この小説は、イギリスのブッカー国際賞も受賞しているそうです。
日本の女性作家が書く小説とはかなり毛色が違いますね、うん
とにかく息苦しいほど濃密な小説です。
新しい地平を観たい方にぜひ。