久しぶりになんともいえない暗い気持ちになった
NHKでサカナクションのボーカル、山口一郎くんの、2年間に渡るうつ闘病記を見たからだ
「このアーティストの曲だから好き」というより、曲ごとに好き嫌いを判断する私にとって、サカナクションは「好きなアーティスト」と言える数少ないバンドのひとつだ
つまり、曲の打率が高いのだ
メジャーデビューした曲からずっと
それなのに私は、「努力の天才」と崇めているボーカルの山口くんのことを、何もわかっていなかった
饒舌なおしゃべりも、コントまがいの番組も、ひょうきんなコメントも、全部全部、好きでやっているんだとばかり思っていた
たまに目が泳ぐのが気になるけど、山口くんは本質的に陽キャなんだと思ってた
でも、違ってた
あれは山口くんが、たくさんの人に自分の音楽を聴いてもらうために、必死で身につけた「ペルソナ」だった
本当の山口くんは、ステージでひと言も話せない、サングラスをはずすこともできない、内向的な青年なんだそうだ
その彼が「いくぜ!みんな!!」とコンサートで叫ぶようになるためには、どれほどの努力と覚悟がいっただろう
そのときの彼の心のきしみを思うと・・・泣けてくる
でも、いっかいのファンにすぎない私が気づかないのも、仕方なかったのかもしれない
だって、サカナクションのメンバーですら、あれを「好きでやってる」と思っていたんだもの
彼らは大人になってからバンドを組んだから、「以前の」山口くんを知らない
山口くんが最初に組んだ高校時代からのバンドは、楽曲を高く評価されていたのに、売れなかった
だから解散した
これじゃダメなんだ、と山口くんは思ったんだろう
「いいものを作ってるだけじゃ売れない、人に聴いてもらえない」って
自分が変わらなければいけないんだって
実際、彼が陽キャに転じたら、バンドは売れた
今のこの状態を考えたら、売れすぎてしまったくらいだ
もちろん、サカナクションメンバーの音楽性や技術が高かったから売れた、という側面もある
とはいえ、サカナクションはあまりにも「=山口一郎」なバンドだった
どこのバンドも多かれ少なかれ「ボーカル=バンド」ではあるけれど、サカナクションは徹底していた
どの番組でも、CSでやってた自分たちの番組ですら、山口くん以外のメンバーはぜんっぜんしゃべらないんだもの!!
こんなにボーカルしかしゃべらないの、「MAN WITH A MISSION」とサカナクションくらいだよ!
いや、マンウィズさんはそういう「設定」だから仕方ない
ジャン・ケン・ジョニーさんしか「日本語しゃべれない」からね
でも、サカナクションは違うでしょ?
みんな日本語しゃべれるよね??
山口くんの、張り詰めきった心の糸が、ついにプツンと切れた日
彼は言っていた
「サカナクション=山口一郎」がいやなんだって
辛いんだって
そりゃそうだ
山口くんはヘンタイと言われるほど、音にも歌詞にもこだわる
彼の独特の作詞法、ワードひとつひとつに何個も何十個もの候補を出して、最良の1ワードを選んでいく、という気の遠くなるようなあの作業
あれをやっているだけで、普通だったら頭がおかしくなる
それほどの完ぺき主義者の彼が、サカナクションのすべてを背負っていたんだ
すべての作業にヘンタイなほどこだわってきた
そりゃ心も体もすり減るよね
だって、音楽は彼にとって仕事じゃなくて「趣味」「人生」だから
仕事なら、どこかで「はい、今日はここまでで終わり」とできる
「じゃこのあと朝まで飲むか」「フットサルでもするか」「サウナで整うか」とできる
でも、趣味だったら、人生だったら、24時間どこにも逃げ場がない
大好きな音楽の、大好きだからこそ堅牢な囲いの中に、24時間365日閉じ込められたままだ
誰か・・・誰か彼をサポートできなかったのかな?
こうなる前に、なんとか助けてあげられなかったんだろうか
メンバーでなくてもいい
誰かが彼を、1日1時間でもいい、音楽の牢獄から救い出していたら・・・
それがムリなら、一緒に牢獄に入って、そばに座っていてくれたら・・・
だって、彼のうつ病は、たぶん音楽をやっているかぎり、完治はしない
いいときと悪いときの波を小さくすることができるだけだ
そして彼は、音楽を辞めはしない
それが山口くんのすべてだから
みんなが心から彼の音楽を求めているから
そう、事ここに至っても、みんなと同じように彼の新しい音楽を求めてしまう私は、あまりにも残酷で身勝手な人非人だろうか?
ベースの草刈さんが言っていたことも心に引っかかった
要約:私だって24時間音楽がやりたい。でも子どもがいるからできない
それは違うと思う
子どもがいたら24時間音楽をやれないことは100も承知の上で、子どもをもつことを決めたのはあなた自身だ
あなたは24時間音楽をやらないことを選択したんだ
それがいい悪いではなく、自分でそう選択したんだから、そんな言い訳はしてほしくなかった
少なくても、山口くんが目にするであろう番組のなかでは
ドラムの江島くんの言ってたことのほうが、まだわかる
彼は「いつまで休んでるんだ、って言っちゃいそうになる。言ったらだめだってわかってるのに」って言ってた
うん、ひどいようだけど、そう言いたくなる気持ちはわかる
私だって、ある仕事仲間が、仕事が修羅場のときにちょっとしたケガをして、そのカバーをするためにほかの全員がめっちゃくちゃたいへんだったとき、心の中で同じ事思ったから
江島くんにとって、山口くんは何よりも大事な「仕事仲間」なんだし、彼が欠けたらサカナクションは完全に終わりだ
焦るよね
山口くんのうつ病は、今はなんとか快方に向かっており、ツアーも再開した
少しだけほっとする
そして、絶対に絶対に無理はしないでほしいのに、それを見たい自分もいる
本当に業が深いよね、ファンってヤツは💦
山口くんの精神の糸が切れた直接のきっかけは、コロナだった
音楽を不要不急と言った人々のせいだった
そのなかで、音楽業界の仲間を救おうと奮闘し、彼のなんとかつながっていた精神の糸は切れた
コロナが心の底から憎らしい
どん底の山口くんを支えたのは、たまたまその前にスタッフに加わっていた、高校時代のバンド仲間だったそうだ
彼らがいつもそばにいて、たわいない話をしてくれたから、山口くんは浮上できた
ああ・・・本当にありがとう🙏
サカナクションを、山口一郎を、山口一郎の音楽を救ってくれて
こんなふうに人を救うことは、ネットにも、SNSにも、AIにも、絶対に絶対に絶対にマネできない!!!
人間であっても、たぶん「学生時代の仲間」にしかできないような気がするんだけど・・・どうだろう?
見ている間中、胸が痛くて仕方なかったこの番組の、それだけが心の救いとなりました