この盤・曲は、旧「わたしの愛聴盤」では採り上げていない。新「わたしの愛聴盤/曲」ではじめて、CDとして登場する。
1.新「わたしの愛聴盤/曲」の候補として検討するようになった経緯
(1)妻が一時期ピアノ演奏を再開したころのこと
長男・長女の小学校低学年通学のころの1980年に、わたしたち家族は、鎌倉市の手広というところに住むようになった。ピアノを置くスペースができたので新しく購入し、妻は時々弾くようになった。
妻がよく弾いたのは、
「モーツアルト作曲 ピアノ・ソナタ第11番 K331 イ長調 トルコ行進曲つき」である。彼女は特に第1楽章が好きで繰り返し弾くことが多かった。わたしもこの曲が非常に好きになった。
(2)LPレコード、CDの収集
「ピアノ・ソナタ第11番 トルコ行進曲つき」(以下ソナタ第11番と略記)の入っているLPレコード・CDを盛んに収集した。
その目的は、一つには、妻が自分の演奏する際に参考になるだろうと思ったこと。
二つには、わたしがこの曲を聴くとき、いろんな演奏を比較することで、聴き方に深みが出るだろうと思ったことだ。
収集に先立ち、LPレコード・CDの評判・評価を予備的に確認はしなかった。リサーチにおいては、自分の直感的判断でスクリーニンしてから、O次情報をかき集めることがある。それと同じようなもので、一種の「情報収集癖」が出たのかもしれない。
(3)収集の結果
1)LPレコード
①リリー・クラウス モーツァルト/ピアノ・ソナタ全集(下巻)ANGEL RECORDS
EMI 東芝音楽工業
②【ギーゼキング・モーツァルト・ピアノ・ソナタ音楽全集 第4集】EMI 東芝音楽工業
③ヴァルター・クリーン モーツァルト:ピアノ曲全集 第4集 (録音:1963年)ワーナー・パイオニア
④ゾルターン・コチシュ モーツァルト・リサイタル フンガロトンレコード キングレコード
⑤バックハウス モーツァルト・リサイタル ロンドンレコード(ベリー・ベスト・クラッシック150選 LONDON
⑥内田光子 モーツァルト/トルコ行進曲つき 録音:1983年10月 ℗1984 日本フォノグラム PHILIPS
2)CD(2枚)
①バックハウス/最後の演奏会 録音 CD1 1969年10月26日、CD2 1969年10月28日 ℗1971
Immortal Backhaus 1000 LONDON/DECCA
②マリオ・ジョアオ・ピリス モーツァルト・ピアノ・ソナタ全集 Vol.3 録音 1974年1~2月コロンビア・ミュージック・エンタテーメント
③アシリア・デ・ラローチャ モーツァルト・ピアノ・ソナタ第8番,第10番,第11番「トルコ行進曲付き」&第15番 録
音:ピアノ・ソナタ第11番 1989年12月 ℗&©1999年 Sony Music Entertainment
(4)愛聴盤を選び抜くのは困難
・「ピアノ・ソナタ第11番 トルコ行進曲つき」が入っているLPレコード、CDをたくさん視聴したが、愛聴盤を選び抜くのは困難だった
・元々そういう意図で収集したのではなかった。また、それらの中にとくに印象が強いとか、聴くならいつもこれ、というものが選び出されていたわけでもなかった。
・さらに、今回の新「わたしの愛聴盤/曲」の検討においても、「ピアノ・ソナタ第11番 トルコ行進曲つき」の対象は、絞り切られそうもなかった。候補になったどのCDも、これこそ“愛聴”いえるほど聴く機会が多いものはなかったのである。
2.新「わたしの愛聴盤/曲」に選ぶ対象になったCDが登場し、そのCDが選定に決定した理由
ところが、数年前になって、上記記事、1の(4)のような状況が変わることが起こった。それは、フランスのピアノ界の巨匠アンヌ・ケフェレック(Anne Queffélec)による、モーツァルトのピアノ・ソナタ(ソナタ第11番を含む)の新録音盤のリリースの情報である。
ケフェレックによるモーツァルト曲としては、2001年録音があるが、今度はそれから20年弱を経ての録音になる。
“MOZART SONATES k331,332,333”
ANNE QUEFFELC PIANO
発売日 2019年05月25日
Release Date March 03, 2020
レーベル Mirare
録音時期は明示情報がないが、発売日 2019年5月だから、2018年ころだろう。
さっそく購入して聴いてみた。
期待以上の、あまりにも素晴らしい演奏で、正直びっくりした。
《演奏に強く惹かれたところ》
・フランスで蓄え、磨き、発展させた、気品とエレガンスのあるピアニズム
・左手の響かせ方、右手の歌わせ方、つまりそれぞれが表現しているものは、一音一音丁寧によく聞こえて、それぞれが美しい音色である。そして各手側それぞれのピアニズムと表現する音楽内容のバランスが絶妙。
・トリルなどの装飾音にユニーク性を出して、それがとてもエレガンスに聞こえたりする。こういうところはケフェレックらしさを感じる。
以上の検討から、タイトルに掲げたCDを、新「わたしの愛聴盤/曲」に採りあげることにした。
今後このCDは、折に触れ時々聴くことになると思う。こういうCDが出るまで、待っていてよかった。このCDを出したのが、フランスのピアニストのアンヌ・ケフェレックだったことは幸いだったと考えている。
3.アンヌ・ケフェレック(Anne Queffélec)のショート・プロフィール
1948年1月パリ生まれのフランスのピアニスト。
5歳からピアノを始め、パリ国立高等音楽院を首席で卒業した後、ウィーンでアルフレッド・ブレンデル、パウル・バドゥラ=スコダ、イェルク・デームスに師事。1968年ミュンヘン国際音楽コンクールで満場一致で優勝を果たし、翌年リーズ国際ピアノ・コンクールでも入賞。一躍ヨーロッパで大きな注目を集め、世界各地で演奏活動を開始させた。
エラート、ヴァージン・クラシックス、ミラーレなどから膨大な数のアルバムをリリースし、多岐に亘るレパートリーの録音を残している。1990年にはフランス音楽業界賞で年間最優秀演奏家賞を受賞。フランスで開催されるラ諸音楽祭にも定期的に出演している。
とりわけモーツァルトの瑞々しい解釈は高く評価されており、6公演にわたり開催されたモーツァルト:ピアノ・ソナタ全曲演奏会はラジオ・フランスで放送され絶賛された。また、映画「アマデウス」ではサー・ネヴィル・マリナーとの共演でピアノ協奏曲を演奏し、話題となった。