地方自治の法的根拠について教えてください。
A.
地方公共団体という地方政府の統治権(地方自治権)の根拠はどこにあるのか(地方自治(団体自治)の法的根拠)について、固有権説と伝来説(承認説)との間で論争が行われてきました。
現在は、伝来説のバリエーションである制度的保障説が通説となっています。
地方自治の法的根拠に関する学説
1 固有権説
地方公共団体の自治権は、中央政府から与えられたものではなく、地方公共団体が本来有している前国家的権利(固有権)であるとする説です。
地域の自治権を個人の人権と同様、憲法以前の自然的権利と考えます。
この説によると、中央政府が自治権を侵害することは許されないことになり、自治権の強い根拠づけが可能になります。
しかし、何が自治権の内容をなすのかが不明確だと批判されます。
2 伝来説(承認説)
地方公共団体の自治権は、中央政府から与えられたものであって、前国家的なものではないとする説です。
近代国家の統治権はすべて国家(中央政府)に帰属し、地方公共団体は統治機構の一環をなすため、その自治権も国家統治権に由来すると考えます。
この説からは自治権は法律によって認められたものであり、自治権の内容は法律によっていかようにも左右されることになります。
これでは、自治権の憲法的保障が無意味となってしまいます。
3 制度的保障説
憲法が地方自治という制度を保障しているとする説です。
伝来説のバリエーションとして唱えられました。
「制度的保障」は、2つのことを意味します。
① 地方自治制度は憲法改正によって廃止することが可能であり、固有権ではな い。
② 法律によって地方自治の本質的内容を否定することは、違憲となる。
※「制度的保障」の機能
①権限付与機能
・・・個別の法律の授権がなくても、地方公共団体が具体的な権能を行使することを憲法上認める機能です(憲法94条参照)。
②防御的機能
・・・制度的保障が与えられている部分について、法律によってもこれを侵害できないとする機能です(憲法92条、憲法95条参照)。
地方自治の本質的内容
地方自治制度の核心ないし本質的内容を、「地方自治の本旨」といいます。
地方政府のあり方を決めるのは法律ですが、それは「地方自治の本旨」にかなうものでなければなりません。
このような法律をもっても侵すことができない「地方自治の本旨」は、「住民自治」と「団体自治」で構成されています。
つまり、
★憲法92条
地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。
① 住民自治
「住民自治」とは、地方の事務処理を中央政府の指揮監督によるのではなく、当該地域の住民の意思と責任のもとに実施するという民主主義の理念に基づく原則です。
憲法は、地方公共団体の長・議員は、その地方公共団体の住民が直接これを選挙すると定め、間接民主制(代表民主制)による住民自治を保障しています(憲法93条2項)。
★憲法93条2項
地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する。
※「地方自治は民主主義の源泉であり学校である」(ブライス)。
② 団体自治
「団体自治」とは、国家の中に国家から独立した団体が存在し、この団体その事務を自己の意思と責任において処理するという地方分権主義の理念に基づく原則です。
憲法は、地方公共団体に執行権(財産管理権限・事務処理権限・行政執行権限)と立法権(条例制定権限)の二種の統治権を与えることで、団体自治を保障しています(憲法94条)。
★憲法94条
地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。
※地方自治は、自由を住民の手の届くところに置くものである(トクヴィル)。
☆関連記事:「武田の合格要点(憲法⑭)」
≪Q&A≫
Q.
地方公共団体のもつ自治権は、地方自治という歴史的伝統的制度の保障によるものではなく、歴史的に地方公共団体が最初に存立し、その後に統一国家が形成されたという経緯を重視した前国家的な固有の権利であるとする点で学説は一致している。
A.×
「地方自治は、前国家的な固有の権利だ」とする固有権説は通説ではありません。
「地方自治は、歴史的・伝統的・理念的な公法上の制度だ」とする制度的保障説が通説です。