TERU探偵事務所物語1 第17話 | TERUのブログ

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つれづれに

洋子のマンションへ着くと、すでに連絡を受けた、応援の警官が二人ほど到着していた。おかげで、管理人に事情を説明して、マンションの中に入れてもらう手間はなかった。

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だが……

オートロックのマンションの中に入れたのはいいが、洋子の部屋となれば、話は別だ。

「部屋にはいらっしゃいませんね」

管理人は、管理人室から洋子の部屋に電話を入れたが、だれも出なかった。

わたしは、洋子の部屋を確認したかったが、そうは問屋が卸さないのが法律と言うものだ。彼女の部屋に入るには、捜査令状が必要だが、そんなモノはどこにもないし、そもそも、わたしは探偵だ。

そう。わたしは探偵。

つまり、探偵には探偵のやり方がある。

「失礼」

わたしはマンションのロビーで待機している警官に言った。

「ここは、わたしが見ているので、あなたたちは、緑スーツの捜索をしてもらえないだろうか? 洋子がここにいない以上、二人で近くを潜伏している可能性もある」

警官は、わたしの提案に顔を見合わせた。

「いや、しかし、署からは、ここを見張れと言われているので」

年配の方の警官が答えた。上司に命令されたことしかしないタイプの男だ。この手の警官は好きじゃなかったが、わたしは最近、警察という組織には必要な人材かも知れないと思いはじめている。少なくとも、証拠のビデオを、勝手にネットへ流してしまうヤツより、扱いやすいのはたしかだろう。政治的な是非はともかく、役人が命令に従わない国に住みたいとは思わない。

なんて、また、どうでもいいむだ話をしてしまった。

「考えてみてくれ」

わたしは辛抱強く続けた。

「緑スーツが逃走した時点で、洋子はここをあわてて出て行った可能性が高い。だとすれば、ここにはもう、だれも戻ってこないよ。張り込みは無意味だ。それより、周りを調べて、なにか出てきたとしたら、お手柄になるぜ」

警官たちは、また顔を見合わせた。まだ、乗り気じゃなさそうだ。

年配の警官は、ヤニ臭かった。かなりのヘビースモーカーのようだ。タバコの値上がりで困っているのは明らかだ。

「おいおい、そんな悩むことないだろ」

わたしは、わざと軽い口で言った。

「どうせ、ここにはだれも来ないんだ。持ち場を離れたって問題ないさ。それより、手柄を立てて、金一封をもらった方がよくないか? タバコも値上がって、小遣いが大変だろ」

「ふむ……まあ、それもそうだな」

年配の警官の方が、のそっと言った。

「あんたが、ここを見ててくれるなら、まあ、ちょいと外回りをしてもいいかもしれない」

「ああ、わたしがここを見てるよ」

「そうか。だったら、ちょいと周りを見てくるか」

年配の警官は、若い方を連れてマンションを出て行った。

よし!

わたしは、心の中でガッツポーズを作ると、管理人室でスポーツ新聞の官能小説を読んでいる、頭の禿げ上がった管理人を呼んだ。

「すいません、洋子さんの部屋は何号室?」

「え? ああ、305ですけど」

「ありがとう。ちょっとドアの周りに、なにか見落としがないか見てきます。もし警官が戻ってきたら、そう伝えてください」

「ああ、はい。わかりました」

「よろしく」

わたしは、管理人に軽く手を上げて、エレベーターに乗り込んだ。

305号室に着くと、だれもいないのに、周りをキョロキョロみてしまった。こういうところで、小心者バレるんだな。などと思いながら、わたしはスーツのポケットから、ピッキングの道具を出して、洋子の部屋の鍵を開けた。

なぜ、そんなものを持っている!

と言われても困るが、持ってるんだからしょうがないだろ。いや、わかった。正直に言う。シャーロック・ホームズは、いつも鍵開けの道具を携帯してたんだ。それを読んで、ずっと憧れていたTERU少年は、大人になって、実際こんなことをやっている。

というわけだ。シャーロック・ホームズと違うのは、わたしは有名にもなれないし、お金も儲からない。でも、この仕事を選んでしまったのだからしかたがない。いまは、やるべきことをやるだけだ。

わたしは洋子の部屋に家宅侵入すると、まずはすべての部屋を確認した。

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本当に洋子がいないのか、あるいは、洋子以外のだれかが潜んでいないか、もしくは連絡の取れないグレースさんが監禁されていないかを確認したのだが、どれも当てはまらなかった。

洋子の部屋には、だれもいなかった。念のため、押し入れや、キッチンのシンクの下まで見たが、人影はなかった。

わたしは寝室らしき部屋に戻ると、この部屋を重点的に調べることにした。時間は限られているのだ。

ベッドの上に、洋服が散乱していた。あわてて出ていったのが手に取るようにわかる。緑スーツから連絡を受けて逃げたに違いない。やはり洋子は事件に関与しているのだ。

わたしは机の引き出しを開けて、なにか証拠になるモノがないか探した。なにを探しているのか、イマイチ自分でもわかっていなかったが、写真とか日記とか、洋子の行動や気持ちを推し量れるものだ。

一番上の引き出しには、それらしきモノは入っていなかった。わたしは少し焦ってきた。ここにいる時間が長すぎる。そろそろ、スポーツ新聞の官能小説を読み終わった管理人が不審に思いはじめるだろう。

しかし、二段目の引き出しにそれはあった。

ビリビリに引き裂かれた、何枚かの写真を発見した。断片から察するに、洋子と部長が写っているようだ。わたしは心が騒いだ。やはり洋子と部長は付き合っていたのか?

しかし、いまここでパズルを解く時間はない。わたしは、それらの破片を集めて、スーツのポケットに押し込んだ。

そのとき。

一枚だけ破かれていない写真が、引き出しの奥にしまい込まれていたのを見つけた。

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「こ、これは……」

わたしはゴクリとつばを飲み込んだ。

決定的だった。

どうやら浅草の浅草寺でデートしたときの写真のようだ。洋子の顔は、営業スマイルという感じではなかった。部長とのデートを心から楽しんでいるように見えた。本当に彼のことが好きらしい。

写真右下に日付が写っていた。いまから七ヶ月くらい前の写真だ。そういえばグレースさんが、半年ほど前、洋子が落ち込んでいたと言っていたな。

この写真は、落ち込む、一ヶ月ほど前か……

このころは、幸せだったのだろう。そして、この一ヶ月後に部長と破局したのだ。破かれた写真は、洋子の心を表しているかのようだった。おそらく、部長から一方的に別れを切り出されたに違いない。それで、衝動的に彼との思い出の写真を破った。

だが……

この一枚だけは破くことができなかったのだろう。

わたしには、洋子のように、若い女性が、すだれハゲのオヤジに惹かれるわけが、まったく理解できなかった。まあ、恋愛観は人それぞれだ。そのことに文句をつけるつもりはない。だが、愛憎の果てに悲劇が待ってるのだとしたら、話はまったく別だ。

わたしは写真をスーツの内ポケットにしまうと、引き出しを元に戻して、足早に洋子の部屋を出た。こんどはピッキングの逆の手順で、ドアの鍵を閉めると、エレベーターに乗って、なにごともないという顔で、一階のロビーに降りた。

「ああ、探偵さん」

不審に思った管理人が、管理人室から出てくるところだった。

「あんまり遅いから、どうしたのかと思いましたよ」

「調査は念入りにやるものだよ」

わたしがとぼけた声で答えると、外を見に行った警官も戻ってきた。

「ダメだな。なにもない」

年配の警官が首をふった。

「じゃあ、禁煙することだな」

わたしは年配の警官の肩をポンと軽く叩いて、マンションの出口に向かった。

「おい、探偵さん。どこ行くんだ?」

「言っただろ。もう、ここに用はないって」

わたしは警官をふり返らずに、マンションの外に出た。

朝方は、うっすらかかっていた雲がすっかり晴れて、日差しがまぶしかった。今日はいい天気になりそうだ。

わたしの心とは裏腹に……



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洋子と部長が付き合っていた証拠を見つけたTERU!
果たして、犯人は洋子なのか!

次回の、TERU探偵事務所物語を、お楽しみに!


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この物語はフィクションです。
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