コレットは~15話の続き妄想的な何か04 | よりみち小部屋。(倉庫)

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『花とゆめ』連載中の「コレットは死ぬことにした」の続き妄想、4話目。

本誌出ちゃったけど仕方ない。
ぶちぎってしまおうかとも思ったけど、せっかくなので頑張って書く。
完結はいつになるのやら。


以下、興味のない方はバックプリーズ。






ケルベロスは空を全力で駆ける。
その背に乗るハデスは眉間に深いしわを刻んだまま。
コレットが見つかったというのに不機嫌なハデスに話しかけることができないゼウスは、黙って下に広がる景色を見る。

やがて見えてきたのは、空に浮かぶ1つの小島。
闇の中に灯された明かり。その中心には白い壁の宮殿が浮かび上がっている。
宮殿の周辺にはたくさんの草木が植えられ、それらは全てたわわに実をつけていることが見て取れる。
ゼウスも何度も訪れたことのある宮殿だ。ゼウスは顔を上げてハデスに確認する。
「兄上、ここって……」
ゼウスは眉間のしわをさらに深める。
「豊穣神デメテル……姉上の宮殿だ」


速度を落としながらも急降下したケルベロスは、庭に設けられた広場に降り立った。
ハデスとゼウスがケルベロスの背から降りると、宮殿から3名、女性が走り寄ってきた。デメテルに仕える者たちだ。
3名はハデスとゼウスの前に跪いてお辞儀する。

「最高神ゼウス様、冥王ハデス様。突然の来訪、いかがされたのでしょうか?」
ハデスはきゅっとまた、眉間にしわを刻む。
「こちらに客人がいるだろう。迎えに来た」
ハデスはそれだけ言うと、女たちの返事を待たずに宮殿へと向かう。
「ちょ、ちょっと兄上!」
うろたえる女性たちとハデスを数回見比べた後、ゼウスは慌ててハデスの後を追う。
「いくら姉上の宮殿とはいえ、いきなり訪れてこれはまずいんじゃないの?」
すたすたとお構いなしに歩くハデスに追いついてからゼウスが尋ねるが、ハデスはゼウスを見ようともしない。
「失礼な真似なのはわかっているが、その前に姉上も礼を欠いた行為をしているだろう?」
「コレットを連れ去ったってこと?」
「ああ」

ハデスは宮殿に踏み入れる。
夜の突然の来客、しかも最高神と冥王という2人に、宮殿にいる者たちはただただ驚いて跪いて頭を下げるのみだ。
「姉上が客人を連れてきているはずだ。2人はどこに?」
ハデスが近くで跪いた女性に尋ねると、女性は一度肩を跳ね上げた後、また深々とお辞儀をして奥を指差した。
「奥の部屋にいらっしゃいます」
「分かった」
「あ、でも今は……」
女性が顔を上げて言葉を続けようとしていたが、ハデスはそれを待たずに歩き出す。
ハデスを追うゼウスはちらりと女性を振り返り、片手を顔の前にあてて詫びた後、またハデスを追った。

「ちょっと兄上!いくらなんでも先に姉上に話を通すくらいのことをしても……」
ゼウスの言葉にハデスは応じないまま、廊下を進む。
ほどなく、宮殿の奥の部屋にたどり着く。そこはデメテルの私室だ。
入り口に控える女性たちが何か言いたげにしていたのを無視して、ハデスは部屋に踏み入れる。
「姉上、失礼する」
「夜分遅くに失礼しまーす」
ハデスに続いて、ゼウスも入室する。

部屋は豪華な調度品で飾られている。
部屋の主であるデメテルは、部屋の奥に置かれている上質のソファに腰かけてゆったりと紅茶を飲んでいた。
長い髪を結い上げ、シンプルながら豪華なアクセサリーを身に着けている。
豊穣の女神、デメテル。ハデスとゼウスの姉であり、天界でも美しいと称される女神の1人だ。
「いらっしゃい、ハーちゃんにゼウス」
デメテルは飲んでいた紅茶を目の前のローテーブルに置いて立ち上がり、ハデスの方に駆けてきた。

「ハーちゃんが天界に来るなんてレアよねー!」
楽しそうに笑うデメテルに、ハデスは無表情のまま語りかける。
「姉上」
「なあに?」
「ここに、コレットがいるだろう?」
ズバリと尋ねるハデスに、デメテルはいたずらがばれた子供のようにぺろりと舌を出す。
「やっぱり知ってた?」
「アポロンの神殿から突然消えたと聞いた。アポロンの神殿の精霊も心配している。返してもらおう」
「んー……でもちょっと今はねぇ……」
渋るデメテルに、ハデスは眉間にぎゅっと皺を寄せた。
にこにこと穏やかに見えるデメテルだが、マイペースで強引なところもあるのだ。
ハデスはデメテルに取り合っても無駄だと判断する。

「コレット、居るなら返事をしろ!」
ハデスは大きな声で呼びかける。すると……
「えっ?!は、ハデス様?!な、何で?!」
部屋の奥の衝立の陰から、驚きの声が上がる。
そして慌てて人の動く気配と、それを諌める声。
「そこにいるのか」
ハデスはまっすぐに衝立の方に向かっていく。それを慌てて止めたのは、デメテル。
「ちょっとハーちゃん!それは待って!」
しかしハデスの歩みの方が早く、あっさりと衝立の前にたどり着く。

「入るぞ」
後ろでデメテルが騒いでいる声を無視してハデスが衝立の向こうに入っていくと、驚き惑う数名のデメテルの世話人とその真ん中で座っている女性の姿が見えた。
「コレット」
「は、はいぃいい!」
ハデスが呼びかけるとほぼ同時に、座っていた女性が立ち上がり振り返った。
さらり、と頭にかぶせられたヴェールが翻り、しゃらりとアクセサリーの音が鳴る。

振り返ったのはコレット。その姿を正面から見て、ハデスは固まってしまう。

コレットが身にまとっていたのは、見慣れた青い薬師の服ではなく、天界の女神たちの衣装だ。
服の胸元と袖には複雑な模様を施した布を使用し、中心には大きな宝石が飾られている。
普段は見えるのことのない腹部が大胆に見えるセパレートの衣装。
腰にはネックレスと同じデザインの装飾が施され、足もとまでたっぷりと布が使われたスカートをまとっている。
頭には薄い絹で織られたヴェールがかぶせられており、長い髪はいつもの三つ編みではなくふんわりと輪を描くように二つに束ねられてる。
振り返った時に音を立てたのは豪華な耳飾り。同様に豪華な装飾を施した首をすっぽりと覆うデザインのネックレスは大きく開いた胸元を半分ほど隠している。
ヴェールに半分隠された顔には、薄く化粧が施されている。

「ハ、ハデス様?」
固まって何も言わなくなってしまったハデスに、コレットは恐る恐る声をかける。
その声にハデスが我に返り、口を開いたその時。

「ハーちゃん!待ちなさいって言ったのに聞かないんだから!レディの着替えを覗くなんて最低よ!!」
デメテルが飛び込んできて、ハデスの腕をがっちりつかんだ。
「あ、着替えは終わってたのね」
「あ、はい。デメテル様」
コレットが返事をすると、デメテルは大きなため息をついた。
「全く!これがもうちょっと早かったら大事件になってたわよ!冥王が女性の着替えをのぞいた!って噂になるわよ」
「噂になるとすればその原因は姉上かと思うのだが……」
「ごちゃごちゃ言わずに、とっとと出なさい!」
デメテルはぐいぐいとハデスを引っ張る。
どうやらコレットは危険な目にあっているわけでもなさそうであるし、何より着替え中だと言われてしまえばハデスはデメテルに従うしかない。
ハデスはちらりとコレットを振り返った後、衝立の方に向かって歩きはじめる。
「じゃ、コレットは仕上げをしてもらってから出てきてね」
「はあ……」
デメテルはよろしくね、とコレットの周りに控える者たちに声をかける。
ひらひらと手を振った後ご機嫌で鼻歌を歌いながら衝立の向こうに消えるデメテルを、コレットはその場に立ち尽くしたまま、見送ったのだった。



【05へ続く】




この先、ふんわりと決まってるけどまだ落とすところまではいってません。
6話完結になるのかもしれない。


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