どこか痛むと、他の痛みが消える理由
右肩と左脚をいためて通っていらっしゃる患者さんとの会話です。
「先生、今日はえらく右肩がうずいて、困ってるんですわ」
「それは大変ですね」
「そのかわり、いつも具合の悪い左脚は、調子がいいんです。治ってしまったんでしょうか?」
「治っているのかどうか、一度拝見しますね」
脚の太さを測って調べると、左脚の腫れは、以前とほとんど変化がなく、とても治ったと言える状況ではありませんでした。
「これは治ったのではなく、右肩の痛みに注意が集中しているため、左脚の問題に気がついていらっしゃらないだけです」
「そうなんですかー。治ったのかと思ったのに、気のせいなんですね」
「そうです。人は、何かに関心が集中すると、それ以外のものへの感覚が抑えられるようになっています。ですから、肩が良くなると、また脚の具合の悪いところがわかるんじゃないですか」
翌週、その患者さんが来られました。
「先週ここを出たときには、右肩が楽に回るようになってたんですよ」
「それは良かったですね」
「でもね、先生が言われたように、左脚の具合が悪いのがまた気になりだしました」
「やはり、そうなりましたか・・・」
あるところが強く痛むと、他の痛みが消えたり減ったりすることがよくあります。
例えば、肩と腰の痛みで通院されていた女性が、肋骨を骨折したとたんに、肩と腰の痛みを感じなくなられました。ところが、肋骨骨折が治ったとたん、また、肩と腰が痛くなってしまわれました。
このような現象は次のような仕組みで起こります。
神経には、興奮性の神経と抑制性の神経があります。これらはいつもペアではたらいています。
体のある部分が傷つくと、興奮性の神経がはたらいて「○○が痛い」という感覚が起きる大脳の特定の場所を興奮させます。
それと同時に、興奮性の神経によって興奮させられた場所の周辺を、抑制性の神経が、興奮させないようにはたらきます。これを周辺抑制(しゅうへんよくせい)と呼びます。
つまり、痛みを感じている場所以外の場所の痛みを感じにくくさせます。強い痛みが起きると、抑制性の神経も活発にはたらくので、他の痛みが消えたり、弱くなったりするのです。
一方、強い痛みが消えると、周辺抑制もなくなるので、それまで、さほど気にならなかった別の場所の痛みが気になってくることがあります。
寺田接骨院 寺田弘志