アメリカの学力テストにおいて、生徒の答案を不正に書き直し、学力テスト結果を改ざんしたカンニング問題について。

 

Studies: When Educators Cheat, Students Suffer

 

The Causes and Consequences of Test Score Manipulation: Evidence from the New York Regents Examinations

 

かなり久々(約4年ぶり)のアメリカの学力テストにおけるカンニング問題。

 

アメリカで学力テストに基づいたAccountability政策学力テスト結果で生徒の学力を測定し、それによって教員・学校・学区の業績を判断し、その責任の所在を明らかにする、このブログお馴染みの政策)によって、蔓延したカンニング問題(過去のカンニング問題は私のブログ、こちらこちらをご覧下さい)。

 

日本と違い、アメリカのカンニングは教員、その他学校関係者が犯すのが主で、今回紹介するのはニューヨークでの教員による生徒のテスト回答の改ざん問題。Education Weekの興味深い記事、又それに関連した研究論文を紹介し、アメリカのカンニング問題、さらにそれに関連したアメリカ教育政策等の影響についてお話したいと思います。

 

<NY学力テストと卒業基準>

 

今日のカンニング問題を説明する前に、ニューヨーク州で規定されるNYの学力テスト(New York State Regents Examination)に関する概要を理解してないと話が進まないので、まず背景知識である学力テストとその政策について。

 

このテスト、高校卒業に必修のテストになっていて、ニューヨーク州政府が定める主要5科目(英語、数学、Science(日本でいう理科)、U.S. History and Government(アメリカ史と日本でいう政治経済の混合した科目)、Global History and Geography(世界史&地理を混合した科目)で州で定められた基準値に達していないと州内の高校生は卒業できません(もちろん、例外はありますが)。

 

さらに、主要科目以外にも、Advanced math(上級レベルの数学)、Advanced science(上級レベルの理科)などにもテストがあり、年三回実施されています。ここで重要なのは、他の州政府と違い、

 

Regents exams are graded by teachers from students' own schools

(各生徒が在籍する学校の先生によって、テストの採点が行われる)

 

ということ。地元の各学校の教員が採点し、その結果が各学区に報告され、最終的にニューヨーク州政府へ届けられる、という(テスト会社が集計して採点&分析し、テスト結果を州政府へ報告する)他の州政府と全く違うプロセスです。

 

0-100点満点のテストで、(2005年以前の高校生、2008年時に高校生となった生徒では少々ルール変更がありますが)Regents Diplomaと呼ばれる高校卒業証明書を得るには(先程紹介した)主要5科目で65点以上、さらに、それ以上のレベルなら(先程紹介した上級レベルの数学といった)選択科目で65点以上を取らないといけません。

 

<NY学力テスト・Rescoring>

 

英語でいうMultiple-choice Questionと呼ばれる選択肢から選ばせる設問、そしてOpen-response Question、Essay Questionと呼ばれる記述式問題で構成されるニューヨークのテスト。

 

選択肢から選ばせる設問はもちろん、記述式問題も回答例等、採点方法は州政府から規定があり、基本二人がそれぞれ別々に採点し、あまりにも二人の採点結果がかけ離れていた場合のみまた別の人による採点が行われる、というルールがあります。

 

選択肢ありの設問、記述式の設問全ての点数を集計し、最終的にScale Scoreと呼ばれる点数で生徒の得点が決まります(0−100点の範囲内)。今回の研究で使われたテスト結果のデータは、2003−04年から2009−10年度のもので、60−64点内、50−54点内の答案はこれら2つの点数の範囲が重要な学力基準値に達する・達しないの範囲内であるため、間違えがないか確認の目的で、Re-scoring(採点し直す)というルールがありました。今回のリサーチはこのRe-Scoringのプロセスで教員による不正があった、ということにフォーカスしたリサーチです。

 

<NYのAccountability政策>

 

背景知識の最後は、ニューヨークのAccountability政策について。2002−03年度当時、アメリカ・ブッシュ政権が成立させたNo Child Left Behind法(通称NCLB)によって、全州政府はAccountability政策を行う必要になりました。

 

NCLB法で要求されたことは(きっちり話すと長くなるので、今日は掻い摘んで話しますが)(このブログで何度もお伝えしている通り)Proficiencyレベルに達した生徒の割合を報告する、これです。2013−14年度までに全生徒をProficiencyレベルに達するようにする、という非現実的な最終目標ではありましたが、ニューヨーク州の場合、この指標に基づいた判断に使用したのが、(さっきから説明した)

 

New York State Regents Examinations

 

です。全てではないですが、このテスト結果を用いたニューヨーク州Accountabilityシステムが2006−07年度から始まり、その柱の一つが、

 

Proficiencyに達した生徒の割合で学校のパフォーマンスをAーFの成績をつける

 

というもの。高校の場合、上記のテスト結果に重きを置かれていたため、そしてこのテスト結果によって高校の卒業率も決まるため、テスト結果が非常に重要になっていました。逆に言うと、テスト結果が学校のパフォーマンス評価結果、卒業率に多大な影響を与えるが故、教員によるカンニングが起こることになった、とも言えます。

 

というわけでこの研究論文、内容盛り沢山なんで、一回目はこのへんで。次回は上記の内容を踏まえた上で、研究内容を具体的に見ていきたいと思います。