カサ・アルマンド蒸留所のアガベ畑ツアーで学んだアガベと環境保全の取り組みのレポートをまとめました!
先日、オアハカにあるカサ・アルマンド蒸留所のアガベ畑を訪れ、アガベの繁殖方法、メスカル製造の裏側、さらには環境保全や地域への取り組みについて学ぶ貴重な体験をしました。このツアーでは、アガベという植物の奥深さと、それを支えるためのさまざまな工夫が紹介されました。
ツアーは蒸留所から広大な敷地内のアガベ畑へと移動するところからスタートしました。参加者全員がお揃いのハットをかぶり、ゴルフカートに乗って畑を巡る移動は、特別感を感じる贅沢なひとときでした。広大な敷地内には手入れの行き届いたアガベ畑が広がり、その美しさに目を奪われました。
アガベの繁殖と「キオテ」
畑にはさまざまなアガベが整然と植えられ、自然環境を再現する形で育てられています。その中でひときわ目を引いたのが、アガベから伸びる「キオテ」と呼ばれる花茎です。
キオテにはアガベの花が咲き、その花が風や虫、またはコウモリやハチドリなどによって受粉されることで種子が生まれます。これがアガベの繁殖プロセスです。
キオテはアガベが一生のうちに1回だけ伸ばすもので、そこに咲く花は、生命の営みを感じさせる神秘的な光景でした。この花を見ることができるのは、アガベが繁殖の準備を終えた貴重な瞬間です。
ただし、アガベがキオテを伸ばすと糖分が使い果たされ、メスカル製造には使えなくなるため、野生のアガベの保護と持続可能な利用が重要な課題となっています。
エスパディンの特性と自然繁殖プロジェクト
蒸留所では、オアハカのメスカル製造で最も一般的に使われる「エスパディン(espadín)」というアガベ種の特性を活かしながら、持続可能な繁殖を進めています。
エスパディンは育てやすく成長も早い(5〜6年)ため、商業的に非常に有用で、糖分濃度が高く他のアガベ種より多くのアルコールを得られるのが特徴です。
エスパディンは以下の3つの方法で繁殖します:
①種子:花が受粉することで得られる種子。
②ブルビロス:キオテが伸びる際にできる小さな芽。
③イフエロ(huelo):親株から派生するクローン(子株)
蒸留所では、毎年州内から50〜150本の成熟した様々な種類のアガベを持ち込み、自然繁殖を行っています。
これらのアガベから種子や子株を得た後、次の年には新しいアガベを持ち込むというサイクルを繰り返しています。
アガベの栽培プロセス
蒸留所では、アガベの栽培方法にも工夫を凝らしています。種から発芽させたアガベは、まず温室内でたっぷりの水を与えて育てます。
ここでは種の発芽率を高めるために最適な環境を整えています。
また、外の自然環境に適応できるよう準備する必要があります。
室内で約2年間育てた後、アガベは外に移されます。外では人工的に水を与えることはなく、雨季に降る雨水だけで成長するように調整します。
このプロセスにより、アガベは自然の厳しい環境に順応し、持続可能な形で育成されるのです。
メスカル製造の副産物を活用した環境保全
さらに、メスカル製造後に残るアガベの繊維(バガス)を堆肥として再利用する取り組みも行っています。
この繊維は通常、多くの蒸留所で廃棄され環境に悪影響を及ぼしていますが、カサ・アルマンドでは廃棄物を減らすだけでなく、堆肥として再利用し、アガベ畑の土壌改良に役立てています。
蒸留所には約800トンの繊維がストックされており、それを細かくし、水を加えて分解を促し、1年かけて堆肥にします。その堆肥はアガベの苗を育てる土として活用され、さらにはアガベを植えるためのポットにも利用されています。この取り組みは、廃棄物を減らすだけでなく、持続可能なアガベ栽培を支える重要なサイクルの一部となっています。
新しい野菜栽培プロジェクト
蒸留所内やセントロでアーティストサポートのためね無料食堂への供給と、将来的な販売を目指した野菜栽培プロジェクトもスタートしています。
このプロジェクトはまだ試作段階で、塩分の多い水に適した野菜の品種を探す実験を行っています。
塩分の多い水はトマトの生産量には影響を及ぼしますが、一方でトマトの甘みや風味を増す効果もあるとのことです。
このプロジェクトでは、まず蒸留所内で消費する野菜を栽培し、将来的には新たなエリアを割り当て、さらなる規模拡大を計画しているそうです。
こうした試みは地域資源を活用し、食堂の供給や環境負荷の軽減に貢献する取り組みとして期待されています。
カサ・アルマンド蒸留所でのアガベ畑ツアーは、アガベの繁殖や栽培、環境保全に対する深い理解を得られる体験でした。整備された美しい畑やキオテに咲くアガベの花の光景に感動しました。
アガベの繁殖や栽培には長い年月と細やかな管理が必要であり、さらに持続可能な方法で次世代へとつなげる努力が行われています。
一杯のメスカルには、自然と人々の共生の物語が詰まっています。次にメスカルを味わうとき、その背景にある努力や自然の力を思い浮かべながら、より深くその魅力を楽しみたいと思います。