生活安全総務課勤務の塚本正宗は登録簿に押収品を書き足していた。
長期に渡る保管は、押収品目録だけでなく、
登録簿に記載し長期保管庫に移すルールになっている。
これが結構めんどくさい。
物品と目録を確認しながら記載し、移していくのだが、新しい倉庫ができたせいで、
新たに分類分別しなおさなくてはならなくなった。
「あ、これ、どこだったっけ……。」
過去の分類棚を見て、分類の間違いがないか確認していく。
「そうだ、そうだ。」
新しい押収品を書き移し、押収品目録をペラペラと捲る。
証拠と思われるものは全て押収されるため、様々な物が押収される。
ボールペンから金塊まで、裁判が終わるまで返還されることはない。
もちろん、貴重品、銃器類は安全を期するため、別保管されているのだが……。
「ん?」
塚本は一枚の目録に目を止め、分類を確認する。
「あれ、これ、さっきの……?」
先ほど目にした過去の分類棚。
そこにあった押収品目録が、別分類で保管されたことになっている。
「間違ってるじゃん。あ~、じゃ、俺のも~?」
頭を掻き、もう一度棚を確認し、書き直そうとして、手を止める。
保管する棚の方を間違えた可能性もある。
仕方なく、もう一度登録簿を開いた。
「相葉!飯食ったら、佐久間と変わってやれ。」
課長に呼び留められ、相葉が振り返る。
「飯食ってからでいいんですか?」
「ああ、あいつもそろそろ限界だろ。お前も長くなると思えよ。」
課長がニヤリと笑う。
「じゃ、旨いもん食ってきます!」
念願の捜査一課に配属になって一年。
仕事がやっと楽しくなってきた頃。
相葉は笑顔で返すと、音を立てて階段を駆け下りる。
「あいつももうちょっと落ち着けばな。」
課長の溜め息混じりの言葉も聞かず、車へ向かう。
車に乗り込もうとした相葉に、また誰かが声を掛ける。
「相葉!」
振り返ると、同期の塚本が笑顔で立っている。
「おう、どうした?」
「今から飯?」
「ああ、行く?」
相葉が飯を掻き込む手つきをすると、塚本がうなずく。
近所の定食屋で向い合わせに座る二人の前に、生姜焼き定食が置かれる。
同期の中でも仲が良く、塚本の結婚式では相葉がスピーチをした。
「小春ちゃん、大きくなった?」
割りばしを割りながら、椅子を引く。
「ああ、可愛いぞ~。」
塚本がスマホを取り出し、写真を見せる。
3歳の小春が、小首を傾げ、ニコッと笑っている。
「毎日、いってらっしゃいのチューしてくれる。」
「小春ちゃん、陽子ちゃんに似て来たね~。大きくなったらモテて大変だ。」
「そう言うこと言うなよ。今から泣きそうになる。」
塚本が目尻を下げ、目を潤ませる。
「まじか?」
びっくりした相葉が、じっと塚本を見つめる。
「まじ。まじで想像するだけで泣けてくる。」
「うわ~、父親ってすごいな。」
相葉が笑って、生姜焼きに箸を付ける。
「お前はいいやついないの?」
塚本は付け合わせのキャベツにマヨネーズを掛け、美味しそうに頬張る。
「いないいない。今は仕事が忙しくて。」
「お前のとこはずっと忙しいぞ?」
「じゃ、ずっと一人?陽子ちゃんの友達、誰か紹介してもらおうかな?」
「紹介する必要ないだろ?お前、昔からモテるじゃん。」
「そんなことないよ。あ、じゃ、20年後独身だったら小春ちゃんに来てもらおうかな?」
「小春はやらん!」
顔を見合わせて笑うと、豪快にご飯をかっ込む。
「そろそろ遊びに来いよ。小春が雅紀君に会いたがってるぞ。」
「いいの~?小春ちゃんの初恋の相手になっちゃうかもよ?」
塚本が箸で生姜焼きを突っつきながら、ボソッと言う。
「お前に惚れるなら小春も見る目ある。」
「じゃ、お嫁さんに……。」
「でもやらん!」
塚本のドスの利いた声に、相葉が大笑いする。
「こんな親父がいたら、小春ちゃん、一生独身決定だね。」
「うるせっ。」
面白くなさそうに顔を背ける塚本を、相葉がおかしそうに眺める。
「仕事は?順調?」
大きな生姜焼きを歯で噛み切る。
「それが……。」
塚本は辺りを見回し、声を低くする。
「ちょっと気になることがあるんだ……。」
「気になること……?」
相葉を見る塚本の顔が深刻なものに変わっていった。