一瞬の暗闇の中、ノアは大声で叫ぶ。
「ブランっ!」
キャンディを舐めた瞬間、考えなければいけないのは、ブランと行った喫茶店。
ノアは喫茶店を思い出し、強く念じた。
それなのに、ノアの心を過ったのは……智の顔。
次の瞬間、フワッと体が浮くような感じがして、
ハッと気づくとノアがいたのは……見たこともない道の真ん中だった。
ノアは慌ててブランを探す。
「ブラン!」
キョロキョロ辺りを見回し駆け出す。
「ブラン、どこ!?」
ブランの影も、あの喫茶店も見えない。
闇雲に走り回り、通りを歩く人を避け、ブランを探す。
だが、ブランの姿どころか匂いもしない。
「ブラン……。」
徐々に心細くなり、泣きそうになる。
「ブラ~ンっ!!」
大声で叫ぶと、小さな男の子が寄って来る。
「ママ~!ねこ~っ!」
ノアはサッと避けて走ると、自動販売機の下に逃げ込む。
「ママ~!」
男の子の手が自動販売機の下に入ってくる。
ノアはさらに奥に移動する。
「入っちゃった。」
男の子が、地面に頭が付きそうになりながら、自動販売機の下を覗き込む。
ノアの目が大きくなる。
怖い。
シルエットでしか見えない男の子の影が怖い。
伸ばす手に身震いし、さらに奥に逃げる。
「ねこちゃ~ん、ねこちゃん?」
男の子の手がおいでおいでと動く。
ノアはじっと動かず、ただその手を見つめる。
「ダメよ。そんなとこにしゃがんじゃ。ほら、買い物行かないと
お昼食べられないよ~。」
お母さんの声に、男の子が立ち上がる。
「でも、ねこちゃん……。」
「大丈夫。猫ちゃんもママのとこに帰るから。」
男の子の足が動き出す。
「ほんと?」
「そうだよ。でないとねこちゃんもご飯食べられないからね?」
「うん!」
遠のいて行く二人に、ホッとし、自動販売機からちょっと顔を出してみる。
人影はない。
ノアは、ふぅと溜め息を吐き、空を見上げる。
「ブラン……どうしよう?」
自動販売機から出、フラフラと辺りを見回す。
どう見ても、来たことのないところに見える。
ブランと以前人間界に来た時にも、降り立った覚えがない。
どうしてこんなところに来てしまったのか。
途方に暮れると、だんだん喉が渇いてくる。
キャンディを舐めたせいか、走ったせいか。
「水……どこにあるんだろ?」
ノアは用心しながら道の端を歩く。
「ジュースでもいいけど……星のしずくジュース。
あ、血の池ジュースでもいいな……。
とにかく、何か飲みたい……。」
次の瞬間、フワッと体を掴まれて硬直する。
え?と振り返ると、学生服を着た女の子がノアの体を抱き締めていた。
「いやん、可愛いっ!」
「ほんと、すっごいイケメンじゃない?」
「何この大きな目!カラコンなくてこれって、すごくね?」
「超、小顔!」
「赤い鈴、似合う~!」
女の子たちが楽しそうにノアを見つめる。
ノアは嫌がって、女の子の胸に爪を立てる。
「痛っ。」
女の子がびっくりしてノアから手を離す。
その隙をついて走り出す。
「あ~、逃げられちゃった!」
「せっかく飼ってあげようと思ったのに。」
女の子たちの声が遠くに聞こえる。
ノアは走りながらホッとして、前を向いた瞬間、何か柔らかいものにぶつかった。