タカサゴミヤマクワガタ(チョウセンミヤマ台湾亜種)Lucanus dobowshy taiwan | 昆虫漂流記

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タカサゴミヤマクワガタ WILD

(チョウセンミヤマクワガタ台湾亜種)
Lucanus dobowshy taiwanus


 

今日はちょっと「ややこしい話」を始めましょう。
たぶん、其処らその辺の安物の図鑑よりも詳細に書いているとは思いますが、記述しながら自分でも文章をまとめることが出来なくなり頭が痛くなります。

読むのが邪魔くさいと云う人の為に、最初に結論を述べて置けば、「タカサゴミヤマは、戦後から現在までに三度の学名が変わり、別の種として分類された」という訳だ。
此処から先を読もうと考える人は、おそらく虫馬鹿の世界にドップリ足だけでなく頭まで沼底に沈んだ、私と同類の人だろうネ。

 

 

昭和の初めの世界大戦前後の図鑑では、ミヤマクワガタは台湾産や朝鮮半島産も日本国内のミヤマクワガタ「Lucanus maculifemoratus」(ルカヌス マクリフェモラトス)と同種として1861年の記載以来分類されていました。とりあげたのは、当時トップクラスの昆虫研究家の平山修次郎著 松村松年校閲の千種原色昆虫図譜です。此の図譜については此方で説明しております。

東京産 オオクワガタ 平山修次郎コレクションと原色千種昆虫図譜、手塚治虫氏



 

その後に、初版1994年のむし社からの世界のクワガタムシ大図鑑が発行された当時ではミヤマクワガタ「Lucanus maculifemoratus」(マクリフェモラトス)は次のように分類されました。

  • ①朝鮮半島産と中国北部、アムールに産する個体群を1873年に「Lucanus maculifemoratus dybowskyi」
  • ②中国湖北省、陜西省、四川省、雲南省、、チベットにおける大陸内陸部の個体群を1897年に「Lucanus maculifemoratus boileaus」
  • ③台湾に産する個体群を1936年に「Lucanus maculifemoratus taiwanus」

として各分類されて記載が進みました。
この分類当時にロシアの個体を基準に1873年に記載されたLucanus dybowskyi(ルカヌス ディボウスキー)と云うチョウセンミヤマクワガタが存在していましたが、まだ「maculifemoratus」との整理が出来ていない状態でいました。

しかしながら、2010年に
上記載の①②を再編集されて「Lucanus maculifemoratus dybowskyi」から独立種として

  • チョウセンミヤマクワガタ「Lucanus dybowskyi dybowskyi」(種ディボウスキー原名亜種)
  • チョウセンミヤマクワガタ「Lucanus dybowskyi lhasaensis」(種ディボウスキー亜種ラサエンシス)

に再分類されました。
以前にラサミヤマクワガタと呼ばれていた「Lucanus lhasaensis」もチョウセンミヤマの亜種ラサエンシス「Lucanus dybowskyi lhasaensis」に含めた訳です。

上記載の③のマクリフェモラトス台湾亜種は、離島という事もあり「Lucanus maculifemoratus taiwanus」から「Lucanus dybowskyi taiwanus」とチョウセンミヤマクワガタ台湾亜種として、別の種になり現在に至っています。

もちろん日本本土のミヤマクワガタにおいては、「Lucanus maculifemoratus maculifemoratus」として継続して記載されたままです。

此処でちょっと小話を
台湾産の昆虫において学名で使用される際には「taiwanus(タイワヌス)」と「formosanus(フォルモサス)」の2通りの言語が使われて命名されます。
種の命名時に

  • 「taiwanus(タイワヌス)」は大陸や日本産の亜種として取り扱うような広域に生息している種の場合に使用。
  • 「formosanus(フォルモサス)」は記載時に台湾にしか生息しない特産種の場合に使用。

という命名方法がとられています。
という理由で、此処では取り上げていないですがタイワンミヤマには「formosanus(フォルモサス)」が使用され、今回のタカサゴミヤマには「taiwanus(タイワヌス)」が使用されていると云う経緯があります。
これは学名の記載時に命名される方法で、後日、別の場所で同種が発見された場合でもそのまま特産種の学名が使用され続ける場合もあります。

ただし「formosanusフォルモサス」ではなく「台湾島」を示す「formosaフォルモサ」で使用する際には、ポルトガル語の「イーリャ・フォルモーザ」が語源で「美しい島」と云う意味合いになります。


更に、台湾においては台湾南部に浮かぶ蘭嶼島(蘭嶼郷・らんゆうとう、らんしょきょう)日本統治時代には紅頭嶼(こうとうしょう)と呼ばれた島と緑島(日本統治時代の名称は火燒島))に生息する生物には、この島だけの特産種がいる事から亜種名に「kotoensis 」(コトエンシス)が用いられます。
また蘭嶼島の「嶼」には小島と云う意味合いがあるので、正確には蘭嶼(らんしょ)が正しい言い方ですが、日本向けには「島」をつけた方が理解されやすい事から用いられます。
少し寄り道が過ぎたようですね。元に戻しましょう。

タカサゴミヤマを含むチョウセンミヤマ各亜種は、実の処、外見上では日本国内のエゾ型ミヤマクワガタと大差の無い形をしています。

その上を考慮して外見の違いを探せば頭部の額の部分に衝立(ついたて)状の突起の有無というところでしょうか?


 

どちらにせよ大陸から分離して日本列島形成時にチョウセンミヤマは台湾が直接分離した際に移り住んだのがタカサゴミヤマで日本列島が分離した際に移り住んで進化したのが「maculifemoratus」と考えるのが妥当かもしれません。


タカサゴミヤマ♂ 

Lishan,Taichung Pref. Taiwan

(台中市和平区 梨山(リーシャン))

1989年4月29日採集

採集者 相坂氏より譲受

 

タカサゴミヤマ♀( 師匠より継受)

Paling.Taoyuan Pref.Taiwan

(桃園市 巴陵(バロン))

1987年July採集

相坂氏より譲受

 

日本列島形成においては西日本と東日本が別々に分離した後に合致したのが日本列島だと云われていますが、オサムシにおいては西日本と東日本の種間には大きな違いが分かれていますが、日本国内(離島を除く)にミヤマクワガタ「maculifemoratus」だけでなくクワガタ各種やヤマトカブトムシが各1種類しか存在しない現状には頭を悩ますので無責任ですが触れないで置いておきます。