ミヤマクワガタ(日本国内産)
Lucanus maculifemoratus maculifemoratus
ルカヌス マクリフェモラトス マクリフェモラトス
ミヤマクワガタの仲間(ミヤマクワガタ属)は北半球に分布する仲間で、ヨーロッパからユーラシア中部以南に広く分布し、インド、中国、インドシナ半島、台湾、日本、北アメリカにかけての山地を好んで生息しています。
尚ヨーロッパミヤマの生息地のイラン西部からインド西部にかけては大型のミヤマクワガタの仲間は生息せず小型のミヤマクワガタの仲間で分布をつないでいます。
漢字で示すと「深山鍬形」と記載するのは、各地の山地に生息する事だと云えるでしょう。
世界には大型になる種から小型の種まで色々なサイスのミヤマクワガタ属が見られますが、今回は日本の普通種のミヤマクワガタをとりあげます。
日本に生息するミヤマクワガタは学名が「Lucanus maculifemoratus(ルカヌス マクリフェモラトス)」と命名されています。
でも国内ではミヤマクワガタと呼ぶのが一般的ですが、地方では方言で色々な呼び名があります。
クワガタムシの名前は発達した大顎が戦国武士の兜に付いている前立物の鍬形(くわがた)に似ている事から名前が付けられています。
ミヤマクワガタは頭部に耳状突起(じじょうとっき)や頭冠(とうかん)と呼ばれる特徴があります。クワガタの中でも耳状突起がある事から武将に絡んで「源氏(ゲンジ)」と呼ばれる方言があります。
ミヤマクワガタを源氏(ゲンジ)と呼ばれる方言は兵庫県南西部から南東部で呼ばれるのが知られていますが、日本の広い地域では「ゲンジ」はクワガタムシ全体を示す事が多いようです。
各地でミヤマクワガタの方言を調べて見ると
兵庫や関西各地「ゲンジ」
兵庫、京都、奈良、群馬「ヘイタイ」(ノコギリをヘイタイと呼ぶ地域もある)
奈良「マクラ」(耳状突起が枕に見える為)
京都「オイネ」
長野「サラミヤマ」(耳状突起が皿に見える為)
栃木「バケオーバ」
岩手「カッパジャク」(耳状突起が河童の頭に見える為)
静岡・長野県の一部地域「ハコショイ」(ブロ友ぐっさんから教授頂きました)
種名maculifemoratus(マクリフェモラトス)が示す意味は、裏にかえすと、各脚の腿節(たいせつ)部分の裏側に黄色い紋があると云う意味です。
ちなみに日本のミヤマクワガタ以外にも海外ミヤマクワガタやホソアカクワガタの仲間にも黄色紋が同場所にありますが名前にとりあげているのは本種だけです。
以前は種名「maculifemoratus(マクリフェモラトス」は日本、中国、朝鮮半島、台湾に生息する種群を同じ種類と分類されていましたが、現在は日本に生息する種を「maculifemoratus(マクリフェモラトス)」とし、伊豆諸島に生息する種を「亜種dachii」と分類されています。
さらに中国、朝鮮半島、台湾に生息する種は別種としてチョウセンミヤマとして各産地ごとに亜種分類されています。
日本のミヤマクワガタにはフジ型(さと型)、ヤマ型(基本型)、エゾ型とアゴの形状から名付けられて別けられる事があります。
- フジ型は鍬型の根元に近い第一内歯(赤丸)が長く、それに並ぶ第三内歯(赤丸)は短く、先端の二又(黄丸)は小さいのが特徴です。(写真の個体は少し大きい変異があります)
- ヤマ型は第一内歯(青丸)と、第三内歯(青丸)の大きさは、ほぼ等しく先端の二又もそれほど大きくはなりません。
- エゾ型は第一内歯(緑丸)は小さく、第二内歯、第三内歯(緑丸)の方が長めになる事例が見られます。先端の二又(黄丸)は大きいのが特徴です。
一般的に、標高が低い地域にはフジ型(サト型)が多くみられ、国内で一番多くみられるヤマ型(基本型)が山地に広がり、本州でも標高が1000メートル付近以上の高標高地域や北海道などではエゾ型が見られる事が多いと云われています。(一概に此の通りではありません)
同種類である事から、フジ型、ヤマ型、エゾ型の中間型と云うのも現れる事もあります。
雄は体長の個体差が大きな事例が多いですが、これは昆虫全体にもいえる事だが幼虫時代の餌の摂取量による事が大きく影響しています。(遺伝の影響もあります)
ミヤマクワガタの幼虫は余り移動して餌を漁らず、一か所に留まって、移動せずに成長する事が大きさに影響しています。
標本にすると、生き虫よりも1~2ミリほど乾燥して縮ますが、此方では標本サイズで記載しています。
フジ型ー兵庫県佐用市三日月町産
ヤマ型ー岡山県美作市産
エゾ型ー北海道十勝郡浦幌郡静内産
エゾ型ー兵庫県宍粟市波賀町産
兵庫県朝来市産
長文になりましたが最後に
採集に出かければ昼間に樹液などで見かける場合は雄との出会いが多いですが、夜間採集でライトトラップを行うと雌ばかり飛んで来てガックリ肩を落とす事も多いのが恒例ですね。