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2012/1/18

年末から年始にかけて、NHKBSプレミアムで『世界一番紀行』とい
うシリーズ番組を放送していました。

その第1回目の放送は『世界で一番大きな棚田~中国・雲南~』。

ハニ族は、かつて他民族から追われて逃げ延び、標高3000メートル
の現在地に、やっと落ち着くことが出来ました。
しかし、この地で食糧を得るためには山を開墾するしかありません。
高低差が500m、総面積54,000haを超える、国連食糧農業機関(FAO)
が認定した“世界で一番大きい棚田”は、ハニ族の祖先の努力によ
って完成しました。

棚田での農作業は、非効率極まりないものです。

村人たちは平等を保つために、標高の高いところと低いところの
2箇所にそれぞれ棚田を所有しています。集落は棚田の最上方にあ
り、低い方の棚田には、歩いて行くだけで50分以上かかります。
階段状に連なる棚田の一枚一枚は面積が小さく、とても機械作業に
は馴染みませんから、全ての農作業は手作業で行います。
収穫した米は、今度は2時間かけて村まで担ぎ上げます。

収穫が終わったら、今度は畔のメンテナンスです。
畔の法面(のりめん)に生えた雑草を放置しておくと、雑草の根が
伸びて畔がひび割れ、崩れてしまうからです。
削りっぱなしでは畔が細ってしまいますから、今度は田んぼの泥を
掬って積み上げ、元通りの大きさに修復します。

こうした膨大な作業で毎日が埋め尽くされて、ハニ族の1年のサイ
クルは繰り返されているのです。

村の更に上方にある森は、雨をろ過し、その水は村に流れ込みます。
野菜屑や残飯をエサとする家畜の排出する糞尿は、森から流れ込む
水に混ぜ入れ、下方の棚田に流されます。
畔のメンテナンスでこそげ取った雑草も、家畜の糞尿とともに肥料
として田んぼを潤し、米を豊かに実らせる役に立ちます。

こうして、食物連鎖のサイクルも眼前で具体的に繰り返されていき
ます。

人間は所詮“糞袋”であり、食べては排出することが生きることの
本質である、とでも確信しているのか、ハニ族の生き様は自信に溢
れてみえます。
自分達の祖先が築き上げてくれた、自然の営みに寄り添いながらし
っかりと命を繋ぐことができるこの完璧な仕組みが、彼らに誇りと
充実をもたらしているのでしょう。

ただ食べるためだけに1年中働き続けるハニ族の、心底充実した表情
を見ていると「食べるだけで精一杯」などという愚痴をこぼすことが、
どうにも卑小で恥ずかしいことに思えてくるのです。