宝塚歌劇団とドサまわり | 店舗探し.comの過去コラム

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2011/12/22

先週、NHKBSプレミアムでは連日、宝塚歌劇団の公演を放送して
いました。


少女マンガさながら、目鼻立ちをくっきりと縁取った濃い目の
化粧で孔雀の羽を広げたような金ぴかの衣裳を纏った王子様や
お姫様が、宝塚特有の様式で甘ったるい恋物語を謳い上げる・・・。

宝塚とは、夢見る少女や、コアなお金持ちのオバサマファンだ
けが築き上げる、男子禁制の特異な世界で、うす汚れた中年男
などがうっかり近づこうものなら、それこそ袋叩きにあってし
まうのではと、これまでは全く無縁なものとしてきました。

しかし、最初のうちこそソファに寝そべってうつらうつらしな
がら眺めていたものの、いつしかその華やかな独得の世界に引
きずり込まれてしまい、レビューが終わる頃には、なんとスタ
ーと一緒に歌を口ずさんでしまう始末。
周囲に誰もいなかったのがせめてもの救いでしたが、結局5日間
の放送はすべて録画してしまいました。

年を取ったら、地味な格好をするよりも、少し派手めに着飾っ
た方がいい、とよく言われます。
若さがはじけてまぶしいほどに生命力が輝いている年頃は、素
材が派手なので、色調を抑え気味にした方が若さが引き立ちま
す。


しかし、年を取り、たるんだ肌がシミだらけでくすんでしまう
ようになったら、地味な色使いで渋くコーディネイトしようと
しても、薄汚くなるだけで、気分まで滅入ってしまうのだとか。

若い頃は、場末の大衆劇場に掛かるドサまわりの一座による、
いかにもうらぶれた芝居に惹かれて、連日通い詰めたものです。
廃れゆく大衆演劇が放つ侘しさは、終焉間近の息も絶え絶えの
死臭にも似て、儚い陰影の微かな気配を漂わせていました。

そんな老いさらばえた世界が、無邪気に明るいばかりで、無限
に思える生命力に溢れた青年には、自分には無縁の魅力と映っ
たのでしょう。

一点の曇りも無い派手派手な女の園である宝塚の舞台に心惹か
れたのは、自分の人生がいよいよ暮れかかって終焉が近づいて
いる証拠なのかもしれません。

確かに、鏡を見れば深い皺が刻み込まれ、一見、人生を達観し
た哲人のごとき説得力ある表情が映っています。
しかし、実のところはと言えば、心の内は依然として屈託ばか
りで、迷いに満ちた若者の時と、大して変わっちゃあいないの
です。