年の瀬の感傷に | 店舗探し.comの過去コラム

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2012/12/21

年の瀬も押し詰まると感傷的になるのでしょうか。
毎年、この時期にはなんとなく俳句や短歌が気になります。
 
俳句は、世界最短の定型詩と言われます。

たった17文字という制約の中に、風景や感情を切り取って表現
しなければなりません。
一字として無駄にすることなどできませんから、伝えたいニ
ュアンスがなんであれ、一直線に表現するよりありません。
 
「4T」と呼ばれる女流俳人がいます。
中村汀女、橋本多佳子、三橋鷹女、星野立子の4人で、いずれも
明治生まれです。
 
 咳の子の なぞなぞあそび きりもなや  中村汀女
 
家庭に題材をとることが多かった汀女の作風はときに「台所
俳句」とも揶揄されましたが、汀女は

「私たち普通の女性の職場ともいえるのは家庭であるし、仕事
 の中心は台所である。」

と反論しました。
もっとも、こんな句もあります。
 
 風邪床にぬくもりにける指輪かな
 
  さし寄せし 暗き鏡に 息白し
 
星野立子は、高浜虚子の次女で、父が唱える客観写生、花鳥
諷詠の忠実な実践者でした。
 
  しんしんと 寒さがたのし 歩みゆく  星野立子
 
  雛飾りつつ ふと命惜しきかな
 
写生句の多い立子ですが、こんな句もあります。
 
  短日の ふと何を欲り 指輪欲り
 
  トランプの 独り占 稲光
 
橋本多佳子は、店舗探し.comのオフィスがある文京区本郷の
出身です。
女性の哀しみ、不安、自我などを女性特有の微妙な心理に
よって表現しました。
 
  白桃に 入れし刃先の 種を割る  橋本多佳子
 
  干大根 人かげのして 訪はれけり
 
  雪はげし 抱かれて息の つまりしこと
 
三橋鷹女は、4人のなかでも表現の激しさと前衛性において
突出した存在でした。
 
  鞦韆(しゅうせん)は 漕ぐべし 愛は奪うべし 三橋鷹女
 
  夏痩せて 嫌ひなものは 嫌ひなり 
 
  ひとり子の 生死も知らず 凍て睡る
 
  老いながら つばきとなつて 踊りけり
 
  墜ちてゆく 燃ゆる冬日を 股挟み
 
鞦韆はブランコのことです。
いずれの句も古臭さがなく、現代句としても通用しそうです。
 
同時代の先駆者としては杉田久女を外せないことから、「4T」
に久女を加えて、「4T+1H」と言うこともあります。
 
  花衣 ぬぐやまつはる 紐いろいろ  杉田久女
 
  足袋つぐや ノラともならず 教師妻  
 
  瞳うるみて 朱唇つややか 風邪に臥す
 
高浜虚子によって「ホトトギス」を除名され、失意の中亡く
なった久女の一面は、こんな句にも表れているでしょう。
 
  平凡の 長寿願はず まむし酒
 
今年もまた、ごろりと横になって先人の俳句を楽しむことに
します。
年の瀬は、あふれる感傷にどっぷりとつかりたくなるのです。
 
 俳句読む けじめもつかず 年の暮れ  筆者