スイスでは企業経営者の報酬について、その会社で最も賃金の
低い従業員の12倍を上限と定める提案がなされ、先日、国民
投票が行われました。
この提案は社会民主党青年部が中心になって発議されたもの
です。
一般に「1:12イニシアチブ」と呼ばれ、企業経営者の1ヶ月の
収入が、最も賃金の低い従業員の1年分の収入を超えることが
あってはならないという考えに基づくものです。
提案した議員は、所得格差の拡大は不公平を生み、一握りの
富裕層が社会、経済、政治に対して不当な影響力を行使する
ことにつながり、「民主主義が脅かされる」と訴えました。
現在、スイスでは、企業経営者と平均的な平社員との格差は
148対1になっているそうです。
ちなみにアメリカでは、米大手500社の最高経営責任者(CEO)
の1日の収入は、平均的な平社員の約1年分の収入に相当し、
格差は平均で354対1に達しています。
なお、米企業250社を対象とした調査ではCEOと一般社員の所得
格差が最も大きいのは、大手百貨店JCペニーの1795対1だった
とか。
同社CEOの1年の給与と賞与を合わせた年収は約54億円。これに
対して一般社員は約300万円だったそうです。
日本では、最高でも30対1程度とされ、平均的には10対1だと
言われていますので、諸外国に比べて極端に差が少ないと言え
ます。
所得格差に対する感覚は、立場によって意見が大きく異なる
ことは承知しています。
しかし、JCペニー氏が、たった1日に処理した仕事の価値が、
平社員の3年分に相当すると聞けば、違和感を感じる人は多い
でしょう。
立場が違えば、企業に及ぼす影響力に差が出るのは当然ですし、
能力にも優劣があるのは厳然たる事実です。
しかしまた、経営者が経営者だけで企業の仕事一切をこなすこと
が出来ないのもまた事実です。
スイスの「1:12イニシアチブ」に対する国民投票の結果は、
賛成34.7%、反対65.3%と、かなりの差で否決されました。
この法案が通ると、有力企業が流出してしまうのではないかと
いった懸念が喧伝され、純粋に所得格差の是非とは違った理屈
が票を左右したとの見解もあったそうです。
こうした報道が日本ではそう大きく報道されることはありません。
日本の経営者が全体的におとなしいのでしょうか、それとも、
世間一般の平均化への圧力が強いからなのでしょうか。
いずれにしても、程度塩梅をよろしく心得、互いの立場を尊重
することで成り立つ日本型の企業の方が、結局は理にかなって
いるのではないかと思うのです。