暮らしの手帖 | 店舗探し.comの過去コラム

店舗探し.comの過去コラム

会員様向けメルマガに掲載された過去のコラムを掲載しています。

2011/11/16

『花森安治の仕事』
  酒井寛著 暮らしの手帖社
 
雑誌『暮らしの手帖』の名物編集長だった花森安治さんの伝記
です。
 
『暮らしの手帖』は石油ストーブ、アイロンなどの商品テスト
のパイオニアです。
生活者本位で取り組む商品テストには高い評価が寄せられ、熱い
支持を集めています。

商品テストではメーカー名を上げて、いい、悪い、をはっきり
言う『暮らしの手帖』では、公平さを保つために外部からの広告
を一切受け付けません。

こうした斬新な取り組みと雑誌としては異例とも言える広告なし
という独得のスタイルを作り上げたのが花森安治さんなのです。
 
「カーペットの手入れ法より、よごれにくいじゅうたんだ。」

「腐らせない工夫より、腐らないうちに食べる工夫だ。」

「暮らしは流行ではない。自分の暮らしに何がいるかだ。」
 
花森さんは、今でも通用する名言を残しています。

一方、彼には戦時中、大政翼賛会宣伝部にいて、“欲しがりま
せん、勝つまでは”などの戦時標語の普及に努めていた過去が
あります。
当時のことについて生前語ることはあまりなかったそうです。

しかし、戦後、すぐに女性誌を作り、自分も髪にパーマをかけ、
スカートをはいて銀座を歩くなど、花森さんの屈折したやや
奇妙な行動には、彼の内部で繰り広げられていたに違いない葛藤
の激しさを見ることが出来る気がします。
 
「建前と本音というが、建前は通すべきである。本音とは弱音の
 ことだ。」
 
花森さんが亡くなってから30年以上が経ちました。
時の経過は【本音】という言葉に‘免罪符’としての力を付与
しました。

今では、あからさまな【本音】を表明することは、評価される
ための必須条件となり、本音を語る相手の弱点には誰もが寛大に
なりました。

食わねど高楊枝の建前ツッパリ人間はうざったがられ、弱音を
吐き合い、互いの傷を舐めあうことで仲間意識を強化していく
者達が、多数派となって群れています。
 
本音という【弱音】が飛びかう、軟弱でひ弱な現代社会を、
花森さんならいったいどう語ったことでしょう。