純と愛 | 店舗探し.comの過去コラム

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2012/10/11

見たい人が、見たいものを、見たい時に、途中飛ばしたり巻き戻したり
しながら自分のペースで視聴する。
録画を自分流の見方で見ることが当たり前になって以降、朝の連続テレビ小説を観ることがなくなりました。

しかし、10月から始まった『純と愛』は、脚本家が『家政婦のミタ』で
大ヒットを飛ばした遊川和彦氏で、番組開始前に『プロフェッショナル
「ぶつかりあって、愛が生まれる」』の最終回で彼が取り上げられて
興味を引かれたこともあり、1週間分を録画をして観てみました。

『プロフェッショナル』によると、遊川氏は脚本家でありながら実によく
撮影現場に足を運ぶそうです。
演出家さながらに役者に注文を付けたり、その場で脚本に手を入れたりもします。
いつも不機嫌で、口を開けば毒舌ばかりで、役者たちはピリピリしています。
しかし、彼が作品のクオリティを上げようと最後の最後まで諦めない姿勢は現場の隅々にまで伝わって、最後には小さな奇跡を生み出すこともあるのです。

『純と愛』は宮古島で祖父が生前に経営していた「魔法の国のようなホテル」の再建を夢見るヒロイン狩野純が、後に夫となる、待田愛(いとし)と共に夢に向かう姿を描く物語です。

「純」役の夏菜さんは、当初、遊川氏から要求された“凛としたたたずまい”をどう表現すればいいのかで悩み、涙を流すこともありました。
一本調子に大きな声を出すだけでは、がさつで単純なだけの魅力に乏しい人物造型となってしまいます。
ヒロインが視聴者に感情移入されなければ、ドラマの人気が出るはずはありません。
悩みが高じて迷路に迷い込んでいた夏菜さんは、


「技術がない奴は何度でもやればいいんだ。」


との遊川氏の叱咤に吹っ切れます。
素人目にも格段に伸び伸びして見える夏菜さんの演技に、遊川氏はやっとにこりとし、初めて夏菜さんを褒めます。

「愛」役の風間俊介さんは殺人犯を演じた『それでも、生きてゆく』よりも更に不気味で不審人物に見えます。長髪が顔の半分以上を覆っており、さわやかで、白い歯を光らせる清潔青年が通り相場だった朝ドラの相手役としてはかなり異例です。

「純」はまるでストーカーのように付きまとう「愛」から「今のままでいて
ください」と顔を合わすたびに言われます。気味悪がっていた「純」ですがふと、少女時代に「お前は今のままでいい。」と祖父からも言われていたことを思い出します。

なんだかんだありながらも、ハッピーエンドに収束していく朝ドラお約束の文法を、遊川氏が踏み外さないとすれば、展開の予測はそう難しくありません。


サービス業に携わる者が決して忘れてはならないことを、しっかりと肉体化している「純」は、きっと“今のままで”あり続けるでしょう。
そして、変わらない「純」が着実に成功への歩みを一歩ずつ刻んでいくことでしょう。

そんな「純」が送る人生の顛末を、毎朝確認することで、同じサービス業である私たちにもカタルシス効果をもたらしてくれる気がします。
ホテルウーマンとしての第一歩を踏み出したばかりの「純」と、朝ドラヒロインという一流女優登竜門の試練に立ち向かう夏菜さん。
「純」が成長する早さと、夏菜さんが演技力を向上させていくスピードの、抜きつ抜かれつの模様をドキュメントで確認するためにも、半年間録画なしで『純と愛』を楽しんでみたいと思っています。