盆に帰らず | 店舗探し.comの過去コラム

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2011/8/19

“覆水盆に帰らず”
 
もちろん「覆水盆に返らず」が正しいのですが、間違えたままに
記憶していて恥をかいたことがあり、毎年お盆を迎える頃になる
と思い出すのです。
 
「盆に帰らず」からの連想でしょうか。
お盆過ぎに不慮の飛行機事故で帰らぬ人となった向田邦子さんの
ことを思い出しては、彼女の作品を読み返すのが、毎年この時季
の恒例になっています。

死んだ子の年を数えてはいけない、と言われますが、彼女が亡く
なった年齢についに追いついてしまった今、もし向田邦子さんが
生きていたら、どれほど多くの名作を残したことだろうと考えると、

亡くなったことが残念でたまらず、何度も胸が詰まる想いがします。
 
向田さんのエッセイ『眠る盃』は「荒城の月」の歌詞にある、

“「めぐる盃」かげさして”を「眠る盃」と記憶してしまってなかなか

修正できないというエピソードからつけられたタイトルです。

同じ「荒城の月」にある歌詞“嗚呼荒城の「よわ(夜半)の月」”
は、「弱の月」と歌い間違えてしまうし、画家の「モジリアニ」
の名前をどういうわけか「モリジアニ」と記憶していたりと、
そそっかしくておっちょこちょいなのもまたかわいらしく、向田
さんの魅力のひとつでした。
 
今年、悲惨な大震災で、多くの人の貴重な命が奪われ、故郷が
破壊されました。
住み慣れた自宅が無くなったままでは、生き残った人達はもち
ろん、新盆だというのに亡くなった人達の魂も、落ち着いて我が家

へ帰ることができません。
 
被災者の方々が、心から安心して住むことが出来る我が家を取
り戻し、来年のお盆には、亡くなった人たちの魂をしっかりお迎え

できるよう、残された私達皆の手で、一刻も早い復興を実現しま

しょう。
涙は流しても、前へ進む足取りだけは、決して弛めてはいけません。
 
“盆に帰らず”は、私の恥だけにしておいてほしいのです。