10秒の壁 | 店舗探し.comの過去コラム

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2013/7/31

『10秒の壁 ~「人類最速」をめぐる百年の物語』
   小川勝著 集英社新書

100メートル10秒の壁は、1968年6月20日、カリフォルニア州サクラ
メントで行われた全米陸上選手権で、当時21歳のジム・ハインズに
よって破られました。

・・・公式記録の上ではそうなっていますが、実はすでにその前に
64年の東京オリンピック100メートルの決勝で、ボブ・ヘイズは
9秒9で走っています。

しかし、東京オリンピックでは電動計時が公式記録として採用され
ていたので、手動計時の9秒9は幻となってしまったのです。
日本の電動計時システムの水準が非情に高かったために、東京オリ
ンピックに限って電動計時が採用されたということなのです。

皮肉な運命のいたずらによって人類最初に10秒の壁を突破した男の
栄誉はボブ・ヘイズにはもたらされなかったのです。

世界記録の更新は、スターティングブロックの採用、高速トラック、
軽量スパイクなどの技術改良による成果という側面も否定できませ
ん。
追い風や向かい風、高地低地といった開催地条件にも記録は影響さ
れます。
フライングへの罰則強化も、選手には過酷な条件となっています。

そして究極の肉体改造であるドーピングは、検査技術や運用方法と、
それをすり抜けようとする選手とのいたちごっこがいまだに続いて
います。

公式記録によって10秒の壁が破られてから既に45年が経過し、記録
は9秒5を切ろうかというところまで来ています。
しかし、日本人にとっては、依然として100メートル10秒の壁が、目の

前に大きく立ちはだかっています。

日本人である以上、100メートル10秒の壁はもちろん私の前にも立ち

はだかっています。

しかし、そんな壁を私が意識したことはありません。

10秒どころか、100メートルを全速力で走りきることすらおぼつかない私が、どうあがいたところで、10秒の壁を突破できることは100%ない

からです。
10秒の壁など無意味なのです。

そもそも、自らの限界に必死で挑むことのない者には、壁など意識

できるはずはないのです。

全力を尽くして、何度挑戦してもあと少しで突破できない壁を意識

できる人というのは、それだけで立派だと言えるのでしょう。

壁に何度も弾き飛ばされ、ついに突破できないままに挑戦を終え
なければならなかったとしても、彼の歩んできた足跡はくっきりと

残り、いつまでも消えることはないのです。