長い箸と短い箸 | 店舗探し.comの過去コラム

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2010/07/27

大皿に盛られた料理の数々が、大きなテーブルに所狭しと並べ
られています。
テーブルの周囲をぎっしりと人が囲み、めいめいに料理をつつき
ながら、食事と会話を堪能します。
 
「日本人は生きるために食べるのでしょうが、中国人は食べる
 ために生きるのです。」

と、かつて台湾出身の古い知人から教わりました。

「たとえ召使であっても、食事をしている間は、誰よりも偉いの
 です。邪魔をしてはいけません。もちろん王様だとしてもです。
 それほど食事の時間は大事なのです。」
とも。
 
食事を楽しむと言う点で、日本人は中国人には遠く及ばないの
ではないでしょうか。
 
中国、韓国の箸に比べると、日本の箸の長さはかなり短いです。

年貢に苦しむ貧しい農民は、一瞬でもお腹いっぱいにするために、
わずかな穀物をお湯でふやかして、お粥や雑炊として食べたもの
です。
お粥は箸でつかめないので、茶碗を持ち上げて口元に持っていき、
かき込むように食べるしかなく、長い箸では不便です。
こうして、食生活が貧しかった日本の箸は短くなったのだ、との
説があります。

日本人が食事を楽しむ余裕などなかったことの、傍証かもしれま
せん。
 
世界中の食で溢れかえり、国を挙げてメタボ対策やダイエットに
取り組むほど豊かになった現代日本ですが、家族が、てんでん
ばらばらに、コンビニ弁当をぼそぼそ食べるような、【孤食】が
問題になるなど、依然として豊かな食事文化とは程遠い状況です。
 
『安閑園の食卓 私の台南物語』
    辛 永清著 集英社文庫
 
は、作家の林真理子さんのたっての願いもあって、24年ぶりに
文庫化された本です。
林さんに、食べ物のエッセイとしてはナンバーワンだとのお墨付
きを貰うだけあって、台湾の名家出身の著者が描く食の世界は、
日本人にも

「食べるために生きてみたい。」

と、宗旨替えを迫るほどの魅力に溢れています。
是非、ご一読を。